カトリック
カトリックは北アイルランド紛争においてどのような役割を果たしたのか?
カトリックはキリスト教の三大宗派(カトリック・プロテスタント・東方正教会)の一つで、バチカンのローマ教皇を頂点とする最大の宗派だ。世界に約十三億人の信者がいる。カトリックと「異なる人種・民族との共存」の単元との関係で特に重要なのは、北アイルランド紛争(「ザ・トラブルズ」)だ。北アイルランドでは、アイルランド統一を望むカトリック系住民とイギリス残留を望むプロテスタント系住民が対立し、三〇年以上にわたって暴力的紛争が続いた。また旧ユーゴスラビア内戦でも、クロアチアとスロベニアはカトリック系の国として、セルビア正教会を持つセルビアと対立した。さらに南スーダン・レバノン・フィリピンなど各地でカトリック系住民と他宗教・宗派の対立が起きている。
カトリックと北アイルランド紛争の関係はどのようなものか?
北アイルランド紛争における「カトリック対プロテスタント」の対立は、純粋な宗教的対立というよりも、民族的・政治的アイデンティティと結びついた宗教的差別の問題だ。カトリック系(アイルランド系・ナショナリスト)住民は、プロテスタント系(スコットランド・イングランド系・ユニオニスト)住民と比べて、雇用・住宅・教育・政治参加などで組織的な差別を受けてきた。この差別への不満が、一九六〇年代の公民権運動と、その後のIRA(アイルランド共和国軍)による武装闘争につながった。IRAはイギリス・北アイルランドでテロを繰り返し、「血の日曜日」事件(一九七二年一月、英軍がカトリック系デモ隊に発砲し一四人死亡)などの悲劇が起きた。
カトリック教会は民族紛争と平和構築にどのような役割を果たしてきたか?
カトリック教会は歴史的に民族紛争と複雑な関係を持ってきた。一方では植民地支配と結びついたり、特定民族への差別を正当化したりした歴史がある。他方で、ラテンアメリカでの「解放の神学」や南アフリカのアパルトヘイト反対運動など、抑圧に抵抗する役割も果たしてきた。北アイルランドでは、カトリック教会の指導者たちが暴力を批判し和平プロセスを支持する役割を果たした。一九九八年のベルファスト合意(聖金曜日合意)の成立には、カトリック・プロテスタント双方の指導者による対話が不可欠だった。旧ユーゴスラビア内戦では、バチカンが早期にクロアチアとスロベニアの独立を承認したことが紛争の複雑化に影響したとも言われる。
カトリックと他宗教・宗派との関係はどのように変化してきたか?
カトリック教会は第二バチカン公会議(一九六二〜六五年)でユダヤ人への反ユダヤ主義的見解を改め、他宗教との対話を積極的に進める方針を打ち出した。この方針転換により、カトリックとユダヤ教・イスラーム・プロテスタントとの関係改善が進んだ。ポーランドやフィリピンでは国民の大多数がカトリック信者であり、カトリック教会が政治・社会に強い影響力を持つ。一方でアイルランドでは聖職者による児童性的虐待問題が明らかになり、教会の権威が大きく失墜した。宗教と民族・国家の関係はカトリックに限らず複雑であり、宗教が民族紛争を煽ることも、平和と和解を促進することもある。宗教的寛容と相互理解が多文化共生社会の実現に不可欠な要素だ。
北アイルランドの事例では、宗教的アイデンティティが民族・政治的アイデンティティと一体化していたため、「宗教問題」として単純化することはできない。カトリック系住民が求めていたのは宗教的な権利だけでなく、経済的平等・政治参加・文化的認知という市民的権利全般だった。一九九八年のベルファスト合意(聖金曜日合意)は、カトリック系とプロテスタント系の両方の指導者が参加する権力分配(コンソシエーション型民主主義)という枠組みを採用した。この枠組みは宗教・民族的に分断された社会でも民主的な統治が可能だという事例として、世界各地の紛争後社会の参考モデルとなっている。現在も北アイルランドでは宗教的・民族的分断は完全には解消されておらず、プロテスタント系とカトリック系の学校が別々に存在し、居住地も分離されたままの地域が多い。真の多文化共生の実現には、宗教・民族の違いを超えた社会的統合への長期的な取り組みが不可欠だ。また旧ユーゴスラビア内戦では、カトリック系のクロアチア・スロベニア、セルビア正教会系のセルビア、イスラーム系のボスニア人という宗教的差異が民族的アイデンティティと一体化して紛争を激化させた典型事例として記録されている。
カトリック教会の社会思想(カトリック社会教説)は、人間の尊厳・連帯・共通善・補完性という原則に基づき、貧困・差別・人権侵害への取り組みを求める。教皇フランシスコは難民問題・格差問題・環境問題について積極的に発言しており、多文化共生と人権保護の観点からカトリック教会が果たす社会的役割は依然として大きい。また中南米・アフリカ・アジアのカトリック系NGOは難民支援・平和構築・人権教育などの分野で重要な役割を果たしている。
宗教と民族の複雑な絡み合いが紛争を生む一方で、異なる宗教間の対話と相互尊重こそが平和の基盤となるという教訓は、北アイルランド・旧ユーゴスラビア・レバノンの事例から学べる普遍的な知見だ。