イギリス
イギリスはパレスチナ問題と民族紛争にどのように関与したのか?
イギリス(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)は、パレスチナ問題と複数の民族紛争の発端を作った国として、「異なる人種・民族との共存」の課題と直接関係している。第一次世界大戦中にイギリスが行った「三枚舌外交」は、現在に至るまで解決されていないパレスチナ問題の根本的な原因となった。また北アイルランド問題においても、イギリスによるアイルランド支配の歴史が宗教・民族対立を生み出し、二〇世紀後半まで続く暴力的紛争の原因となった。さらにインド・アフリカ・東南アジア等の植民地支配の遺産が、現在も世界各地の民族紛争と人種差別問題に影響を与え続けている。
イギリスの三枚舌外交とはどのような外交だったのか?
第一次世界大戦中(一九一四〜一九一八年)、イギリスは相互矛盾する三つの約束を異なる相手に同時に行った。①マクマホン書簡(一九一五年):エジプトのイギリス高等弁務官マクマホンが、オスマン帝国に対する反乱の見返りとしてメッカのシャリーフ・フサインにアラブ人の独立国家樹立を約束した。②バルフォア宣言(一九一七年):外務大臣バルフォアが、ユダヤ人の国際的な支持と資金を得るため、パレスチナにユダヤ人の「民族的郷土」を建設することを支持する声明を発した。③サイクス=ピコ協定(一九一六年):フランスとの間でオスマン帝国崩壊後の中東の勢力圏を秘密裏に分割する協定を結んだ。これら三つの約束は互いに矛盾しており、後の中東の不安定の直接的な原因となった。この「三枚舌外交」はイギリス帝国主義の典型的な手法として、今日も批判されている。
イギリスは北アイルランド問題にどのように関わったのか?
北アイルランド問題の起源はイギリスによる一七世紀のアイルランド植民地支配にさかのぼる。イギリスは一六世紀から一七世紀にかけてアイルランドを征服し、プロテスタントのスコットランド人・イングランド人をアルスター地方(現在の北アイルランド)に入植させた。先住のカトリック系アイルランド人は土地を奪われ、宗教的・経済的差別を受けた。一九二二年にアイルランドが独立したとき、プロテスタント系住民が多数を占める北アイルランドはイギリスに残留した。その後北アイルランドでは、アイルランドへの統一を望むカトリック系住民とイギリス残留を望むプロテスタント系住民の対立が激化し、IRA(アイルランド共和国軍)によるテロが頻発した(「北アイルランド紛争」)。一九九八年のベルファスト合意(聖金曜日合意)でようやく和平が達成されたが、宗教・民族的対立の解消には至っていない。
イギリスの植民地支配は世界の民族問題にどのような影響を残したか?
イギリスはかつて世界の約四分の一を占める広大な植民地帝国を築いた。この植民地支配の遺産は、現在の世界各地の民族問題と深く関係している。①インド・パキスタン分離独立(一九四七年):イギリス領インドをヒンドゥー教徒主体のインドとイスラーム教徒主体のパキスタンに分離独立させた際に大規模な民族的暴力と難民が発生し、カシミール地域の帰属問題は今日も未解決だ。②アフリカの民族紛争:イギリスを含むヨーロッパ列強が植民地支配の際に無視した民族・部族の境界線が、現在も多くのアフリカ諸国での民族対立の原因となっている。③ジンバブウェ・南アフリカ:イギリス系入植者による白人支配の遺産は、アパルトヘイトや白人農場主への土地集中という形で残り、現在も政治的争点となっている。④BLM運動との接点:イギリスでも奴隷貿易の歴史やその利益を得た人々の記念碑・施設をめぐる問題が議論されており、二〇二〇年のBLM運動を契機に植民地主義への再評価が進んでいる。このように現在の民族紛争・人種問題の多くは、イギリスによる植民地支配の歴史と切り離して理解することができない。
イギリスの植民地支配が生み出した問題の解決に向けて、近年では「植民地主義への謝罪と賠償」を求める動きが各地で起きている。ジャマイカ・バルバドスなどのカリブ海諸国は、奴隷制度の被害に対するイギリスへの賠償を要求している。また英連邦諸国(イギリス旧植民地の一部が参加する国際機関)では、歴史的不正義の問題が継続的に議論されている。二〇二〇年のBLM運動を契機にイギリス国内でも植民地主義の遺産の見直しが始まり、大英博物館の収蔵品の一部が植民地時代に略奪されたものではないかという議論も活発化している。現在のイギリスは多文化社会であり、南アジア・アフリカ・カリブ海出身の移民とその子孫が人口の約一五パーセントを占める。宗教・民族的多様性と社会統合のバランスをどのようにとるかは、現代イギリス社会の課題だ。
EU離脱(ブレグジット)後のイギリスでは、北アイルランド問題が再燃している。北アイルランドはイギリスの一部だが、アイルランド共和国と陸続きであり、EU離脱後の国境管理問題がベルファスト合意の枠組みを脅かす懸念が生じた。スコットランドでも独立を問う住民投票が再び議論されており、連合王国自体の分裂の可能性が現実的な政治課題となっている。イギリスが抱える民族・地域問題は、過去の植民地支配の歴史と現在の政治的課題が複雑に絡み合った問題だ。