第9章 国際政治の動向と課題

戦略攻撃兵器削減条約(SORT、モスクワ条約)

戦略攻撃兵器削減条約(SORT、モスクワ条約)

戦略攻撃兵器削減条約とは何か

戦略攻撃兵器削減条約(SORT)は、2002年5月24日にモスクワでブッシュ(子)大統領とプーチン大統領によって署名された米ロ間の核軍縮条約であり、モスクワ条約の名で知られる。冷戦後の核軍縮を再起動する合意として位置づけられる。

条約の内容

SORTは両国の配備戦略核弾頭の数を2012年12月31日までに1700〜2200発に削減することを定めた。STARTⅡで定められた3000〜3500発からさらに踏み込んだ削減が合意された。

条約の特徴

条約は本文が短く、STARTⅠ・Ⅱと比べて具体的な削減方式や検証手続を含まない簡素な内容であった。両国は既存の検証制度を活用することで合意履行を担保しようとした。

SORTはどのような背景で結ばれたか

SORTは、9.11同時多発テロ後の国際情勢とABM条約脱退を踏まえ、米ロ関係の新たな安定化装置として位置づけられた。

ABM条約からの脱退への補完

2001年にブッシュ(子)政権が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退を表明し、米ロ関係には緊張が走った。SORTはこの緊張を緩和するため、削減を条約化することで安定を確保する試みとして登場した。

対テロ協力の文脈

アメリカ同時多発テロ事件後、ブッシュ(子)大統領は対テロ戦争でロシアとの協力を求めていた。SORTはその協力関係を象徴する形で結ばれ、核軍縮と対テロ戦略の結合点として働いた。

SORTはどのような運用上の課題を残したか

SORTは具体的な検証条項を含まないため、履行の透明性は既存の制度に依存した。これは条約としての実効性に限界を残した。

削減方法の不明確さ

条約は弾頭を廃棄するのか保管するのかを明記せず、非配備状態の核弾頭は対象外とされた。これにより、実質的な核戦力の縮小とは異なる削減が進む可能性が残された。

検証枠組みの欠落

SORTは独自の検証手段を持たず、STARTⅠの検証制度に依存していた。2009年のSTARTⅠ失効後、検証の空白期間が生じ、核軍縮レジームの弱体化が懸念された。

SORTは現代の核軍縮にどう接続したか

SORTは検証を伴う新START条約への橋渡しとして、米ロの核軍縮プロセスを途切れさせない役割を果たした。

新STARTへの移行

2010年、オバマ大統領とメドベージェフ大統領によって新START条約が署名された。新STARTは配備戦略核弾頭を1550発まで削減することを定め、SORTを補完する形で現在の米ロ核軍縮体制を支えている。

条約外交の教訓

SORTの経験は、簡素な条約は交渉を容易にする一方で実効性の確保には不十分であることを示した。核軍縮は政治宣言と技術的検証の両輪で支える必要があるという教訓が残された。

監修者 taisa68
最終更新日 2026-04-23