第9章 国際政治の動向と課題

中距離核戦力

中距離核戦力

中距離核戦力とは何か

中距離核戦力は、射程500から5500キロの核弾頭搭載ミサイルを指し、英語の略称INF(Intermediate-Range Nuclear Forces)で呼ばれる。大陸間弾道ミサイル(ICBM)よりも短い射程を持ち、欧州域内での戦闘に直結する核戦力として冷戦後半の中心的争点となった。

射程による分類

核戦力は射程によって戦略核(5500キロ超)、中距離核(1000から5500キロ)、短距離核(500から1000キロ)、戦術核(500キロ未満)に区分される。中距離核戦力は欧州とソ連領内を相互に射程に収める危険な距離帯にあたる。

兵器としての特徴

中距離核戦力は発射から着弾までが短時間で、戦略核より早く相手に到達する。このため先制攻撃の誘惑が高く、偶発的エスカレーションの危険性も大きい兵器体系とされた。

中距離核戦力はどのように問題化したか

1970年代後半のソ連によるSS-20配備と、NATOによる対抗配備の応酬が、欧州における核戦争リスクを急激に高めた。これが新冷戦の代表的な争点となり、1980年代の軍縮交渉の焦点となった。

SS-20の配備

ソ連は1977年から移動式の中距離弾道ミサイルSS-20を配備した。MIRV化により1基で3目標を狙えるこの兵器は、西欧を広範囲に射程に収め、NATOに深刻な脅威を与えた。

NATOの二重決定

1979年、NATOはパーシングⅡと地上発射巡航ミサイルを欧州に配備する一方、ソ連との軍縮交渉を並行させる二重決定を採択した。配備は予定通り進められ、欧州は核戦力過密地帯となった。

中距離核戦力をめぐる交渉はどう進んだか

中距離核戦力問題は米ソ二国間交渉の中心テーマとなり、1981年から交渉が始まった。当初は合意に至らなかったが、ゴルバチョフ登場後に急速に進展し1987年のINF全廃条約につながった。

ゼロオプションの提案

1981年、レーガン政権はアメリカのINF配備停止とソ連のSS-20全廃を等価交換するゼロ・オプションを提案した。当初ソ連は拒否したが、1987年に双方の全廃合意として実現した。

INF全廃条約

1987年12月、米ソは中距離核戦力の全廃を義務づけるINF条約に調印した。双方合わせて約2700基のミサイルが廃棄され、欧州の核戦力均衡は大きく変わった。

中距離核戦力は現代にどう位置づけられるか

2019年のINF条約失効以降、中距離核戦力の規制が空白となり、米中露を軸とする新たな軍拡の懸念が高まっている。中国はINF条約の当事国ではなく、現代の核戦力競争では独自の中距離ミサイル戦力を保有する。

INF条約失効の影響

条約失効後、米ロ双方は中距離ミサイル開発を再開し、アジア太平洋地域では米中の中距離ミサイル配備競争が始まっている。冷戦期の教訓を踏まえた新しい枠組み作りが求められている。

東アジアの安全保障

中国は中距離核ミサイル「東風21」「東風26」などを配備し、日本や米軍基地を射程に収める。この地域では中距離核戦力の規制がない状況が続いており、新たな軍備管理の枠組みが議論されている。

監修者 taisa68
最終更新日 2026-04-23