核兵器廃絶国際キャンペーン
核兵器廃絶国際キャンペーンとは何か
核兵器廃絶国際キャンペーンは、2007年にオーストラリアで発足した、核兵器の完全廃絶を目指す国際的なNGOの連合体である。英語の略称ICANとして広く知られる。世界の100か国を超える地域のNGO、市民団体、活動家が連携し、核兵器禁止条約の成立を主導した。2017年にノーベル平和賞を受賞している。
ICANはどのように誕生したのか
ICANは2007年4月、オーストラリアのメルボルンで正式に発足した。当初はオーストラリアの医師団体を中心とする活動から始まり、その後世界各地のNGOが参加していった。発足の背景には、冷戦終結後も核兵器の数が依然として膨大で、核拡散防止条約の枠組みだけでは核廃絶が進まないという問題意識があった。
1996年の対人地雷禁止条約を成立させた地雷禁止国際キャンペーンの成功例が、ICANのモデルとなった。国家間の軍縮交渉に依存せず、市民社会と中小国家の連携で新しい国際法を作る手法を核兵器に適用することが戦略の核心となった。
ICANの組織構造はどうなっているか
ICANは、本部をスイスのジュネーブに置く国際連合体である。各国のNGOが加盟し、ICAN憲章に基づいて共通の方針を決定する。2024年時点で、100か国を超える地域のおよそ600の加盟団体を抱える巨大なネットワークとなっている。
日本の加盟団体には、日本原水協、日本被団協、核兵器廃絶日本NGO連絡会などが含まれる。ICANの活動は、各国の市民運動と連携しつつ、国連の場での政策提言、核保有国への圧力、一般市民への啓発など、多層的な手法を組み合わせて行われる。
ICANはどのように核兵器禁止条約を実現したのか
ICANの最大の成果は、2017年に国連で採択された核兵器禁止条約の成立に向けた市民社会の推進力となったことである。核保有国の抵抗を乗り越え、中小国家と市民社会の連携で新しい国際法規範を作り上げた歴史的な取り組みである。
核兵器禁止条約とは何か
核兵器禁止条約は、核兵器の開発、実験、製造、取得、保有、貯蔵、移転、使用、使用の威嚇などを包括的に禁止する国際条約である。2017年7月7日に国連総会で採択され、2021年1月22日に発効した。現在も締約国が増え続けている。
条約は、核兵器の人道的影響を重視する立場から作られた。爆発的な破壊力だけでなく、放射線による長期的な健康被害、環境破壊、医療システムへの負荷などを包括的に認識し、核兵器の存在自体を人類の生存と両立しないものとして禁止する枠組みを提示した。
ICANの具体的な活動はどうだったか
ICANは国連会議やICRCと連携し、核兵器の人道的影響に関する国際会議を開催した。2013年、2014年に行われたオスロ、ナヤリット、ウィーンの各会議は、核兵器の被害を科学的、医学的、人道的観点から明らかにし、核兵器禁止の論拠を国際社会に提示した。
市民社会への啓発活動も活発に行った。広島、長崎の被爆者による証言、放射線被害者の体験、核実験被害国の実例を世界に共有し、核兵器の現実を広く認識させた。2017年の条約採択時には、122か国の賛成を実現させ、ICANのノーベル平和賞受賞へつながった。受賞スピーチでは、日本被団協の被爆者サーロー節子さんが強い印象を残した。
ICANの活動の現代的な意義と課題は何か
ICANは、市民社会が国家間の軍縮交渉に依存せず、新しい国際法規範を作る可能性を示した。一方で、核保有国の多くはこの条約に加盟しておらず、実効性には限界がある。核廃絶への道のりは依然として長く、ICANの活動は継続的な意味を持ち続けている。
日本との関係はどうなっているか
日本は唯一の戦争被爆国でありながら、核兵器禁止条約に署名していない。これはアメリカの核抑止に依存する安全保障政策と、条約が核抑止を認めない立場を取ることとの矛盾が理由とされている。日本政府の立場に対しては、日本国内でも多くの議論がある。
ICAN日本支部や被爆者団体は、日本政府に対して条約への参加や締約国会議へのオブザーバー参加を求めている。2022年の第一回締約国会議、2023年の第二回締約国会議には、ドイツ、ノルウェーなどNATO加盟国の一部がオブザーバー参加したが、日本は参加しなかった。核廃絶と安全保障のバランスは、日本社会の継続的な議論対象である。
核保有国の非参加という壁はどう乗り越えるのか
核兵器禁止条約の最大の課題は、核保有国が一国も参加していないことである。アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスの核兵器不拡散条約上の核保有国、インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルのいわゆる事実上の核保有国、いずれも条約に参加していない。ロシアによるウクライナ侵攻では核使用の威嚇も見られ、核兵器をめぐる国際環境はむしろ悪化している。
ICANは、条約を出発点として、国際規範の強化、金融機関による核兵器関連企業への投資引き揚げ、各国の政治的圧力による核廃絶への道筋を作ろうとしている。直ちに核兵器がなくなる世界を実現することは難しくても、核兵器を持つことが国際的に正統性を失う方向へ世界を動かすという長期戦略が、ICANの活動の核となっている。