第1章 社会を作る私たち

03_職業生活と社会参加

職業生活と社会参加

職業の意義と職業選択

職業とは、単に生計を立てるための手段ではない。人は職業を通じて経済的に自立し、社会の中に自分の居場所を持ち、さらに自己実現を果たしていく。この三つの側面が重なり合うとき、職業は人生そのものの柱となる。

働くことの意味

働くことの基本的な意義は、生計を立てて経済的に自立することにある。職業に就き収入を得なければ、自分の生活を築くことはできない。衣食住をはじめ、教育・医療・趣味など、現代社会で生きていくためのほぼすべての活動は、貨幣経済と切り離せない。その意味で、職業に就くことはまず生存の問題でもある。

しかし働くことの意義はそれだけではない。人は職業を通じて自分らしさを生かしたり見つけたりすることができる。これを自己実現と呼ぶ。自己実現とは、自分が本来持っている可能性や才能を最大限に発揮し、それが社会の中で認められていく状態を指す。つまり職業は「食べるための手段」であると同時に「自分が何者かを問い続ける場」でもある。

さらに職業の意義として見落としてはならないのが、社会的な貢献感である。自分が社会や人々の役に立っているという自覚と実感こそが、職業に従事することの本質的な喜びをもたらす。医師が患者を救うとき、教師が生徒の成長を目にするとき、職人が作品を完成させるとき、そこには単なる労働報酬を超えた充実感がある。職業は個人と社会をつなぐ回路であり、その回路を通じて人は社会の中に生きているという実感を得る。

適切な職業選択のために

職業選択においてまず重要なのは、自分自身についての理解を深めることである。自分の性格の特徴や興味・関心の方向、強みと弱みを把握しておかなければ、どの職業が自分に合っているのかを判断する基準が定まらない。「なんとなく」で職業を選ぶと、入社後のミスマッチが生じやすく、早期離職にもつながりやすい。

同時に、さまざまな職業についての知識を十分に得ておくことも欠かせない。職業の世界は多様であり、世間に知られている職業名の背後には、実際の業務内容・職場環境・必要なスキルなど、外からは見えにくい側面が多くある。インターンシップへの参加はその知識を得るうえで特に有効な手段の一つである。

インターンシップの意義

インターンシップとは、大学や高校に在学している学生・生徒が、一定期間企業で実際に働いて就業体験をする制度である。職場の実態を知るとともに、自らの職業観や就職観を作り上げることを主な目的とする。

インターンシップが単なる職場見学と異なるのは、実際に業務を経験することで、より広い視野から職業や労働の意義を考えられる点にある。「あの仕事はかっこいい」という表層的なイメージではなく、「この仕事にはこういう苦労があり、こういうやりがいがある」という実感が生まれる。さらに、働くことを通じて自らの生き方そのものを問い直す契機にもなる。インターンシップは職業選択の情報収集であると同時に、自己理解を深める経験でもある。

現代の若者と職業意識の課題

現代の若者の中には、フリーターとなり定職に就かない者も少なくない。フリーターとは、正規雇用の職に就かず、アルバイトや派遣などの非正規雇用で生計を立てている状態を指す。一時的な選択として機能することもあるが、長期化すると社会保険の未加入・スキル蓄積の困難・老後の生活不安などのリスクが高まる。

さらに深刻なのが、無職で就労に向けた活動もしていないニートの存在である。ニート(NEET: Not in Education, Employment or Training)は、教育も受けず、働いてもおらず、職業訓練にも参加していない状態を意味する。加えて、親の家庭に経済的に依存しながら未婚のまま生活するパラサイト=シングルや、社会的ひきこもりの増加も現代日本の課題となっている。

これらの背景には、管理社会の弊害として指摘されるスチューデント=アパシーや「四無主義」がある。スチューデント=アパシーとは、学業や将来への意欲を失った無気力な状態を指し、四無主義とは無気力・無責任・無関心・無感動という四つの無の状態を指す。競争社会の中で過度に管理・評価される環境が、若者から主体的に生きようとする意欲を奪ってしまうという逆説的な現象である。職業選択の困難さには、個人の問題だけでなく、こうした社会構造的な背景もある。

社会参加とボランティア

私たち一人ひとりは社会を作る存在であり、消費者・有権者・市民として積極的に社会にかかわっていくことが求められる。そのかかわり方の総称が社会参加であり、ボランティア活動はその最も身近な実践形態の一つである。

社会参加とは何か

社会に責任をもってかかわっていくことを社会参加と呼ぶ。ここでの「責任」とは、社会の一員として自分の行動が他者や共同体に影響を及ぼすことを自覚し、その影響を引き受けながら行動するという意味である。投票に行く、地域の行事に参加する、ボランティアをする——これらはすべて社会参加の具体的な形である。社会参加は特別な活動ではなく、日常の中に埋め込まれた市民の営みである。

ボランティア活動の原則と意義

ボランティア活動とは、自発的に社会や他人に貢献する活動である。その原則として、自発性・無償性・連帯性・先駆性の四つが挙げられる。自発性とは自らの意志で行動することを、無償性とは金銭的報酬を目的としないことを意味する。連帯性とは他者や社会とのつながりを重視すること、先駆性とは既存の制度や仕組みでは対応できていないニーズに先んじて応えようとする姿勢を指す。

ボランティア活動の価値は、支援する側だけが提供するものではない。新しい世界に出会い、多くを学ぶことができるという点で、参加者自身の成長にもつながる。異なる価値観を持つ人々と協働することで、自分の視野が広がり、社会への理解が深まる。

伝統芸能とボランティア

日本の伝統芸能は、神を祭ることを目的とする年中行事とのかかわりが強い。神楽・能・狂言・民俗芸能など、地域の祭礼と一体化して受け継がれてきた芸能は数多い。しかしこれらの担い手が全国で不足しており、伝統の継承が危機的な状況にある地域も増えている。

そうした中で、ボランティアとして高校生が伝統芸能の保存活動に参加し、町の活性化に貢献する事例が各地で生まれている。若者が地域文化に主体的にかかわることは、文化の継承という意義にとどまらず、地域コミュニティの活力を維持するうえでも重要な役割を果たす。これはまさに社会参加の先駆性と連帯性が発揮された典型例である。

生きがいのもつ意義

職業と社会参加を通じて人が求めるものの核心には、生きがいがある。生きがいとは何か、どこから生まれるのか——この問いに三人の思想家が独自の視点から答えを与えている。

神谷恵美子の生きがい論

精神科医・神谷恵美子は、著書『生きがいについて』(1966年)の中で、生きがいとは使命感を持つことから生じる精神的満足であると論じた。ハンセン病の患者たちと長年向き合った経験から導き出したこの洞察は、生きがいを単なる「楽しい感情」としてではなく、他者や社会への責任感に根ざした深い充実感として捉えている点に独自性がある。「自分がここにいなければならない理由がある」という使命感こそが、人間を内側から支える力だという。

フランクルの生への意志

ユダヤ系の精神科医ヴィクトール・フランクルは、ナチスの強制収容所での体験をもとに書いた『夜と霧』(1946年)の中で、生きがいとは自分が生への意志を持つことだと指摘した。極限状態の中でも生き続けることができた人々は、自分が生きることに意味を見出していた人々であった。フランクルによれば、人間はどんな状況であっても意味を選ぶ自由を持っており、その意味への問いと応答が生きがいを生み出す。

サルトルとアンガージュマン

フランスの哲学者サルトルは、「社会参加」を意味するアンガージュマンという概念を重視した。サルトルの立場では、まず活動することで自己の存在意義——「責任ある実存」——が見つかるとされる。「人間は自由の刑に処せられている」という有名な言葉が示すように、人間には本質があらかじめ与えられておらず、行動と選択を積み重ねることで初めて自分が何者かが決まっていく。

この考え方は、職業選択にも社会参加にも直結する。「どんな仕事をするか」「どんな社会参加をするか」は、単なる趣味の問題ではなく、自分の存在そのものを形作る選択である。サルトルの思想は、行動することの意味を哲学的に基礎づけている。

現代日本人の満足度と社会とのつながり

内閣府などの調査によれば、現代日本人の生活満足度において「生活の楽しさ・面白さ」が強い影響を与えていることが示されている。さらにこの満足感は、「社会とのつながり」や「ワーク・ライフ・バランス」とも強い関連を持つ。孤立した生活よりも、仕事・家族・地域・ボランティアなど多様な場面で人とつながっている生活の方が、主観的な幸福感が高い傾向にある。

成年年齢が18歳に引き下げられたことも、若者の社会参加と深くかかわる変化である。この改正により、18歳から裁判員制度の対象となり、自分だけでスマートフォンを契約し、公認会計士の資格を取得し、代理人なしに民事訴訟を起こすことができるようになった。権利の拡大は責任の拡大でもあり、18歳以上の若者は法的にも「社会の一員」として完全に位置づけられる。

働く目的の多様性

働く目的は人によって異なるが、そこには経済的自立・自己実現・社会貢献という三つの軸が共通して見いだされる。どれかひとつに偏るのではなく、これら三つのバランスをどう取るかが、職業生活の質を左右する。現代社会では「ワーク・ライフ・バランス」が語られるように、仕事と生活のあり方をトータルに設計することが求められている。

まとめ

職業は経済的自立・自己実現・社会貢献という三つの側面を持ち、適切な職業選択のためには自己理解と職業知識の両方が必要である。フリーター・ニート・ひきこもりの増加は個人の問題であると同時に、管理社会が生み出す構造的な課題でもある。社会参加は職業だけでなくボランティアや地域活動などを通じても実現でき、神谷恵美子・フランクル・サルトルの思想はそれぞれ「使命感」「意志」「行動」という角度から生きがいの本質を照らしている。現代日本では社会とのつながりとワーク・ライフ・バランスが満足度と強く結びついており、成年年齢の引き下げが示すように、若者の社会参加は権利であると同時に責任でもある。あなた自身は、職業を通じて何を実現したいのか、そしてどのような形で社会とかかわりたいのか、今一度考えてみてほしい。