イスラエル人(ユダヤ人)
ユダヤ人はどのような歴史を歩み、イスラエル建国とどのようにつながっているのか?
ユダヤ人は、紀元前一〇世紀ころに古代イスラエル王国を建設した民族の末裔で、ユダヤ教を信仰し独自の民族的アイデンティティを持つ人々だ。紀元後七〇年にローマ帝国によってエルサレムが破壊されてから約二〇〇〇年にわたり、ユダヤ人は「ディアスポラ」と呼ばれる各地への離散状態に置かれた。ヨーロッパ各地で迫害を受けながらも民族的アイデンティティを保ち続けたユダヤ人は、一九世紀末のシオニズム運動を経て、第二次世界大戦後のホロコーストの惨禍を背景に一九四八年にイスラエルを建国した。「イスラエル人」とは現在イスラエル国籍を持つ市民の総称であり、ユダヤ人のほかアラブ系市民(イスラーム教徒・キリスト教徒)なども含む。世界のユダヤ人人口は約一四〇〇万人(二〇二〇年)とされる。
ユダヤ人のディアスポラと迫害の歴史はどのようなものか?
ユダヤ人のディアスポラは、紀元後七〇年のローマ皇帝ティトゥスによるエルサレム神殿破壊と、一三五年のハドリアヌス帝によるユダヤ人追放から始まる。中世ヨーロッパではユダヤ人は「キリスト殺し」として差別され、ゲットー(隔離居住区)に押し込められた。金融業・商業への従事を余儀なくされ、それが「ユダヤ人は金に執着する」という偏見をさらに生み出すという悪循環が続いた。一九世紀から二〇世紀初頭にかけてロシア帝国などでポグロム(ユダヤ人虐殺)が相次ぎ、多くのユダヤ人がアメリカや西ヨーロッパに移住した。二〇世紀最大のユダヤ人迫害がホロコーストだ。ナチス・ドイツは一九三三年から一九四五年にかけて組織的にユダヤ人を迫害・虐殺し、約六〇〇万人が殺害された。アウシュヴィッツをはじめとする強制収容所・絶滅収容所での虐殺がその象徴だ。この歴史が、戦後の国際人権法整備と国連によるイスラエル建国支持の背景となった。
シオニズム運動とイスラエル建国はどのように結びついているのか?
シオニズム運動は一九世紀末、オーストリアのユダヤ人ジャーナリストのテオドール・ヘルツルが提唱した。ヘルツルは一八九六年に「ユダヤ人国家」を著し、ディアスポラとヨーロッパでの迫害から逃れるためにユダヤ人が自らの国家を建設する必要があると主張した。シオニズム運動の名前はエルサレムの丘「シオン」に由来し、パレスチナをユダヤ人の国家の建設地として目指すものだった。第一次世界大戦中のバルフォア宣言(一九一七年)でイギリスがパレスチナにユダヤ人の「民族的郷土」建設を支持したことで、ユダヤ人移住が加速した。ホロコーストの惨禍により、国際社会はユダヤ人国家の必要性を認識するようになった。一九四七年の国連分割決議を経て、一九四八年五月一四日にイスラエルの独立が宣言された。
イスラエル建国はパレスチナのアラブ人にどのような影響を与えたか?
イスラエル建国はパレスチナに住んでいたアラブ人に壊滅的な影響を与えた。建国と同時に始まった第一次中東戦争(一九四八〜四九年)の過程で、約七〇万人のパレスチナ・アラブ人が故郷を追われ難民となった。アラブ側はこれを「ナクバ」(大惨禍)と呼ぶ。現在、これらの難民とその子孫はヨルダン・レバノン・シリアなどの難民キャンプや世界各地に散在しており、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)がその支援を担っている。難民の「帰還権」はパレスチナ問題の核心的争点の一つだ。イスラエル国内には約二〇パーセントのアラブ系市民が居住しており、イスラエル国籍を持つが宗教的・文化的にアラブ人として生活している。ユダヤ人国家であるイスラエル内でアラブ系市民が平等な権利を享受できるかどうかは、今日も議論が続く問題だ。
ホロコーストの記憶はイスラエル社会の根幹をなしている。「二度と起こさない(Never Again)」という言葉は、イスラエルの安全保障政策の基本哲学だ。エルサレムにはホロコーストの記念館「ヤド・ヴァシェム」があり、世界中のユダヤ人がここを巡礼する。ユダヤ人の多くにとって、イスラエルの存在はホロコーストへの答えであり、どんな状況でも守り抜かなければならないものだ。この「実存的安全保障への執念」が、パレスチナとの和平交渉において「安全保障上の妥協はできない」という強硬な立場につながっている側面もある。世界のユダヤ人の約四五パーセントはアメリカに居住しており(約六〇〇万人)、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)をはじめとするユダヤ系ロビー団体がアメリカの対中東政策に大きな影響力を持っている。ユダヤ人としてのアイデンティティは宗教的・民族的・文化的なものが複合しており、宗教を信じなくても自らをユダヤ人と定義する人も多い。
ユダヤ人に対する差別・偏見は「反ユダヤ主義(アンチセミティズム)」と呼ばれ、中世から続く歴史的問題だ。反ユダヤ主義は欧米だけでなく中東・アジアにも広がっており、ホロコースト否定論も依然として存在する。国際的な人権基準のもとでは、反ユダヤ主義は人種差別撤廃条約が禁止する差別行為に含まれる。ユダヤ人の貢献は科学・文学・音楽・思想など多方面に及んでおり、アインシュタイン・フロイト・マルクスなど多くの著名人がユダヤ系だ。イスラエルはAI・医療・農業技術などの分野で世界的な技術大国としても知られている。