アラブ人
アラブ人とはどのような人々で、中東問題とどのように関係しているのか?
アラブ人とは、アラビア語を母語または第一言語とするセム語族の人々を指す。現在、アラビア半島・北アフリカ・西アジアにまたがる二二か国からなるアラブ連盟加盟国に約四億人のアラブ人が居住している。アラブ人の定義は民族的・人種的特徴ではなく、言語・文化・歴史的帰属意識に基づく。イスラームがアラブ文化の重要な要素であることは確かだが、アラブ人の全員がイスラーム教徒ではなく、レバノンやエジプトにはキリスト教徒のアラブ人も多数存在する。パレスチナ問題においては、ユダヤ人が建国したイスラエルによって故郷を追われたパレスチナのアラブ人の問題が今日まで未解決の国際問題として続いている。
アラブ人の歴史的背景と中東での役割はどのようなものか?
アラブ人の歴史は七世紀のイスラーム勃興と深く結びついている。預言者ムハンマドがアラビア半島で創始したイスラームは、七世紀から八世紀にかけてアラビア半島から北アフリカ・イベリア半島・中央アジアまで急速に広がり、この過程でアラビア語とアラブ文化が広大な地域に普及した。オスマン帝国の支配(一五、一六世紀から第一次世界大戦まで)を経て、第一次世界大戦後にアラブ地域はイギリス・フランスの委任統治下に置かれた。イギリスは一九一五年のマクマホン書簡でアラブ人に独立国家を約束しながら、一九一七年のバルフォア宣言でパレスチナにユダヤ人の「民族的郷土」を建設する約束もしており、これがアラブ人とユダヤ人の対立の種となった。一九四八年のイスラエル建国後、アラブ諸国はイスラエルに宣戦布告し、第一次中東戦争(独立戦争)が勃発した。
アラブ民族主義とパレスチナ問題はどのように関係しているのか?
二〇世紀に入ると、アラブ人の間にアラブ民族主義(パン・アラビズム)の思想が広がった。これはアラブ人が共通の言語・文化・歴史を持つ一つの民族であり、統一された国家または連帯した国家群を形成すべきだという考え方だ。エジプトのナセル大統領はアラブ民族主義の象徴的指導者であり、一九五八年にエジプトとシリアがアラブ連合共和国として合邦したが、一九六一年にシリアが離脱して解体した。パレスチナ問題はアラブ民族主義と深く結びついており、パレスチナのアラブ人への連帯がアラブ諸国の対イスラエル政策を長年規定してきた。一九六四年にはパレスチナ解放機構(PLO)が結成され、パレスチナ人の権利回復を国際社会に訴える活動を続けた。一九九三年のオスロ合意でPLOはイスラエルと相互承認したが、パレスチナ難民の帰還権問題は今日まで未解決のままだ。
アラブ人とイスラーム教徒の関係をどのように理解すべきか?
アラブ人を理解するうえで、「アラブ人=イスラーム教徒」という単純な等式を避けることが重要だ。イスラームはアラビア半島で生まれアラブ文化と深く結びついているが、世界のイスラーム教徒の約二〇パーセントしかアラブ人ではない。最多のイスラーム教徒人口を持つ国はインドネシアであり、パキスタン・バングラデシュ・インドがこれに続く。逆にアラブ人の全員がイスラーム教徒ではなく、レバノンの人口の約四〇パーセントはキリスト教徒のアラブ人(マロン派・ギリシャ正教など)だ。シリア・イラク・エジプトにもキリスト教徒のアラブ人が多数居住している。パレスチナ問題は「アラブ人対ユダヤ人」という民族・言語の対立であるとともに、「イスラーム対ユダヤ教」という宗教的対立の側面も持つが、本質的にはナショナリズムと領土をめぐる政治的問題だ。アラブ連盟は一九四五年に設立されたアラブ諸国の地域的国際機関であり、パレスチナ問題・集団安全保障・経済協力などで加盟国の連帯を促進している。アラブの春(中東の春)では、アラブ各国の独裁政権が民主化運動によって相次いで崩壊したが、これはアラブ人社会の内部からの変革要求だった。
二〇一〇年代のアラブの春(中東の春)では、チュニジア・エジプト・リビア・イエメン・シリアなどでアラブ人による民主化要求運動が連鎖的に起きた。ソーシャルネットワーク(SNS)が運動の拡散に大きな役割を果たし、「フェイスブック革命」と呼ばれることもあった。しかしシリアを除く多くの国では、民主化が定着せず旧権威主義体制の復活や内戦状態に陥った。エジプトでは二〇一三年に軍のクーデターが起き、民主化選挙で選ばれたムスルム同胞団のモルシ大統領が排除された。アラブ人社会の中には、宗教的価値観と民主主義的価値観の間での葛藤も存在する。パレスチナ人を含むアラブ人難民問題は、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が担い続けており、この問題の解決なくして中東の安定は難しいとされている。
アラブ人の人口は世界で約四億人と推計されており、言語・宗教・文化的な多様性を内包した巨大な文明圏を形成している。アラビア語は国連の六つの公用語の一つであり、世界で最も広く使用される言語の一つだ。アラブ人社会内部でも、石油富裕国と貧困国の格差、都市部と農村部の格差、政治的権威主義と民主化要求の緊張など多様な課題が存在している。