第9章 国際政治の動向と課題

INF(中距離核戦力)全廃条約

INF(中距離核戦力)全廃条約

INF(中距離核戦力)全廃条約とは何か

INF(中距離核戦力)全廃条約は、射程500から5500キロの地上発射型弾道ミサイルと巡航ミサイルを全廃する米ソ二国間条約である。1987年12月8日にワシントンでレーガンとゴルバチョフが調印し、1988年6月に発効した。

条約の基本構造

条約は特定クラスの核兵器を全廃する史上初の軍縮条約であり、削減のみを定めたSALTとは質的に異なる。短射程INFを500から1000キロ、中射程INFを1000から5500キロと区分し、どちらも対象とした。

条約の略称

Intermediate-Range Nuclear Forces Treatyの略称がINF条約で、日本語では中距離核戦力全廃条約と訳される。全廃条約という日本語表記は条約の性格をよく示している。

条約はどのような経緯で結ばれたか

1970年代後半のソ連によるSS-20配備と、これに対抗するNATOのパーシングⅡ、巡航ミサイル配備が欧州核戦力の不均衡を生んだ。この危険な均衡を解消するため、全廃という極限的な解決が合意された。

SS-20問題と二重決定

ソ連は1977年からMIRV搭載可能な中距離ミサイルSS-20を配備し、西欧を射程に収めた。NATOは1979年の二重決定で対抗ミサイル配備と軍縮交渉を並行させる方針を採り、緊張と交渉が並走した。

交渉の転換点

1986年のレイキャビク会談では戦略核兵器の50%削減と中距離核戦力の全廃が原則合意された。SDIをめぐる対立で全面合意は成立しなかったが、INFについては単独交渉が続けられた。

条約はどのような仕組みで実行されたか

条約は検証手続きを詳細に定め、ミサイル本体・発射装置・支援装備を破壊することを義務づけた。双方合わせて約2700基のミサイルが廃棄され、軍縮条約として確実な実行を見た。

検証制度

現地査察、データ交換、通告義務が定められ、冷戦期の軍縮条約としては最も厳格な検証制度を備えた。この検証手続きは後のSTARTや化学兵器禁止条約のモデルとなった。

ミサイル廃棄の実績

1988年から1991年までの3年間でアメリカは846基、ソ連は1846基のミサイルを廃棄した。条約は期限通り実行され、欧州からの中距離核戦力が完全に撤去された。

条約はどう終わり、何を遺したか

2019年、アメリカはロシアによる条約違反を理由に離脱し、条約は失効した。しかし条約が示した全廃方式と検証モデルは、現代の核軍縮議論の基準として機能している。

アメリカの離脱

トランプ政権は2019年2月に条約離脱を通告し、同年8月に離脱が完了した。ロシアの新型ミサイル9M729が条約違反との主張が理由とされ、ロシアも停止措置をとった。

ポスト条約時代の課題

条約失効後、中距離核戦力の規制は空白となり、米中露の新たな軍拡競争への懸念が高まっている。INF全廃条約の経験は、新しい軍縮枠組み構築の出発点として参照され続けている。

監修者 taisa68
最終更新日 2026-04-23