第9章 国際政治の動向と課題

先制攻撃

先制攻撃

先制攻撃とは何か

先制攻撃とは、攻撃を受ける前に相手国や相手勢力を自ら攻撃する軍事行動のことである。冷戦後の国際安全保障、とくにブッシュ(子)政権期の戦略論として重要な位置を占めた概念である。

先制攻撃の類型

国際関係論では先制攻撃を二つに区分する。目前に迫った攻撃を阻止する先手防衛(preemptive strike)と、将来の脅威化を防ぐために事前に攻撃する予防攻撃(preventive strike)である。両者は国際法上の評価が大きく異なる。

自衛権との関係

国連憲章第51条は武力攻撃を受けた場合の個別的・集団的自衛権を認めている。先制攻撃は、この自衛の枠を超えるため国際法上の合法性が厳しく争われる。

先制攻撃はどのような歴史的文脈で議論されたか

先制攻撃の概念は古くから存在するが、冷戦後に国際政治の中心的議題となった。

キャロライン号事件の基準

19世紀のキャロライン号事件で確立された基準によれば、先手防衛は差し迫った、圧倒的で、他の手段がない、という条件を満たす場合にのみ合法とされる。この基準は今日でも広く参照されている。

冷戦期の抑止戦略との対比

冷戦期の核抑止戦略は先制攻撃ではなく、相互確証破壊による抑止に依拠した。先制攻撃論は冷戦終結後、対テロ戦争を契機に前面に押し出される形で再登場した。

ブッシュ(子)政権下の先制攻撃論はどのようなものか

2001年のアメリカ同時多発テロ事件を契機に、先制攻撃論は米国の公式戦略に組み込まれた。

ブッシュ=ドクトリン

ブッシュ(子)政権は2002年の国家安全保障戦略で、テロ組織と大量破壊兵器保有国への先制攻撃権を明示した。これは従来の差し迫った攻撃への反応という枠を超え、将来の脅威への予防攻撃を含む広範な概念となった。

イラク戦争への適用

2003年のイラク戦争は、この拡張された先制攻撃論の最初の大規模適用例となった。しかし大量破壊兵器が発見されなかったことで、その論理の脆弱性と政治的操作可能性が露呈した。

先制攻撃論は現代の国際政治でどう扱われているか

先制攻撃は現代も議論の中心にある概念であり、各国の安全保障政策に影響を与え続けている。

国際法上の論争

ブッシュ=ドクトリンの先制攻撃論は、国連憲章の自衛権規定を拡張解釈するものとして国際法学者から強い批判を受けた。将来の脅威を理由とする予防攻撃は合法と認められないというのが多数説である。

日本の議論への影響

日本では敵基地攻撃能力の保有をめぐる議論で、先制攻撃と憲法9条の関係が論点となってきた。2022年の国家安全保障戦略は反撃能力の保有を明記し、専守防衛との関係が改めて論じられている。

監修者 taisa68
最終更新日 2026-04-23