第9章 国際政治の動向と課題

公海

公海

公海とは何を指すのか

公海とは、どの国の領海、内水、群島水域、排他的経済水域にも含まれない海域を指す。国連海洋法条約第86条は、公海をそのように定義している。整理編でも、海は沿岸国の主権が及ぶ領海と、どの国の管轄にも属さない公海に分かれると説明されていた。

つまり公海は、国家の領域の外側にある海である。ただし、誰の支配も及ばない無秩序空間という意味ではない。どの国にも属さないからこそ、すべての国が従う共通ルールが必要になる。

なぜ公海はどの国にも属さないとされるのか

公海がどの国にも属さないとされる背景には、近代以降の海洋の自由の考え方がある。整理編にも、スペインやポルトガルの海洋独占に対して、グロティウスが海は特定国の独占物ではないと主張したとあった。公海を特定の国の領域にしてしまえば、他国の航行や交易が大きく制限され、国際社会全体の利益が損なわれると考えられたのである。

国連海洋法条約も、公海についていずれの国も主権を主張できないことを前提にしている。海は陸上の領土のように区切り切れず、広大で連続しているため、一国の排他的支配よりも、共通利用と共通規制の方が国際秩序に適すると考えられてきた。

公海自由の原則とは何を意味するのか

公海自由の原則とは、公海ではすべての国が平等に一定の自由を持つという原則である。国連海洋法条約第87条は、公海の自由として航行、上空飛行、海底電線やパイプライン敷設、人工島などの建設、漁業、科学的調査などを挙げている。整理編で説明されていた公海自由の原則は、この現代海洋法の基礎になっている。

ここで大切なのは、公海自由が無制限の自由ではないという点である。第87条も、他国の利益に妥当な配慮をしつつ行使しなければならないとしている。公海自由とは、好き勝手に利用してよいという意味ではなく、共有空間を互いに使うための法的自由である。

公海ではどのような活動が認められているのか

公海では、船舶の航行、航空機の飛行、海底ケーブルの敷設、漁業活動、科学調査などが認められている。国連の Oceans and the Law of the Sea の説明でも、海洋法条約が海と海底での活動全体の法的枠組みを定めているとされる。国際物流、通信、資源調査、海洋観測が成り立つのは、公海の自由が制度化されているからである。

ただし、活動の性質によっては別の条約や国際機関の規制も受ける。たとえば漁業は地域漁業管理機関、船舶安全は国際海事機関、海洋環境保全は環境関連の国際ルールとも結び付く。公海は自由の場であると同時に、多数の国際ルールが重なる場でもある。

公海の利用はどのように規制されているのか

公海利用の基本規制は国連海洋法条約が定めている。そこでは、旗国主義にもとづいて船舶を登録した国が一定の監督責任を負う仕組みが取られている。さらに公海の漁業資源については、各国が保存義務と協力義務を負い、乱獲を防ぐ方向が強められてきた。

近年は海洋生物多様性の保護も大きな課題になっている。国連の BBNJ 協定ページによれば、国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全と持続可能な利用を目的とする協定が 2026年1月17日に発効した。これにより、公海の自由だけでなく、生態系保全や環境影響評価のルールも一段と重視されるようになっている。

海賊行為や違法操業はどのように取り締まられるのか

海賊行為は公海で起こる代表的な違法行為であり、国連海洋法条約第100条以下は、すべての国に海賊行為抑止への協力義務を課している。公海上の海賊については、どの国も拿捕し、一定の場合に裁判権を行使できる。これは公海が誰の領域でもないため、逆に国際社会全体が取り締まりに関与できる例である。

違法操業については、国連の海洋法ページが示すように、港湾国措置協定や公海漁船に関する協定などが整備されている。違法・無報告・無規制漁業は旗国だけでは抑えにくいため、港での検査、漁獲証明、地域漁業管理機関のルールを通じて国際的に抑え込もうとしている。

公海の資源は誰のものと考えられるのか

公海の資源は、一国が当然に独占できるものではない。水産資源については、各国が一定の自由を持ちながらも、保存義務と協力義務の下で利用することになる。したがって、自由に使えるというより、共有空間の中で共同管理が求められる資源と考える方が近い。

一方で、海底のさらに深い国家管轄権外区域、いわゆる『深海底の区域』は別の扱いを受ける。そこは公海そのものではなく、海洋法条約の下で人類共同の財産という考え方がとられている。公海の水面や水柱の資源と、深海底鉱物資源は法的整理が異なる点に注意が必要である。

公海の管理は国際社会でどのように行われているのか

公海の管理は、一つの世界政府ではなく、複数の国際条約、国際機関、地域機関の組み合わせで行われている。海洋法条約が基本原則を示し、国際海事機関が船舶の安全や海洋汚染対策を進め、地域漁業管理機関が資源管理を担い、近年は BBNJ 協定が生物多様性保全の枠組みを加えている。

この管理は分散的で複雑だが、公海がどの国にも属さないからこそ、国際協力によってしか維持できない。自由航行、資源利用、環境保全、海賊対策を両立させるには、各国が公海を私有物ではなく共有空間として扱い続ける必要がある。公海の管理とは、自由を守りながら乱用を防ぐ国際政治そのものなのである。

監修者 taisa68
最終更新日 2026-04-07