第9章 国際政治の動向と課題

ワシントン条約

ワシントン条約

ワシントン条約とはどのような条約か

ワシントン条約は、正式名称を絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約といい、絶滅の危機にある野生生物を国際的な取引から守る条約である。1973年にアメリカの首都ワシントンで採択されたことから、この地名が通称として使われている。英語の略称から、CITESとも呼ばれる。

条約の目的は何か

野生動植物は、違法な狩猟や乱獲、国際取引によって絶滅の危機に追い込まれてきた。ワシントン条約は、種そのものに対する国内的な保護に加えて、国境を越えた取引を規制することで、国際的な需要が絶滅を加速させる構造を断とうとするものである。

取引規制の対象は、剥製や毛皮、象牙、加工品、医薬品原料など多岐にわたる。生きた個体だけでなく、その部分や派生製品も対象となり、需要と供給の両面から保護を進める仕組みを持つ点に特徴がある。

どのような国が参加しているのか

ワシントン条約は1975年に発効し、現在は約180か国が締約国となっている。日本も1980年に加入した。締約国の数の多さは、野生生物保護の分野における国際協力の象徴と言える。国際的な取引の規制には、輸出国と輸入国の両方が条約に参加して初めて効果が上がるため、普遍的な参加が目指されてきた。

2024年時点で世界最大級の環境条約の一つであり、加盟国数の広さから、実効性を支える基盤は広く整備されている。一方で、密猟や密輸の取り締まりは各国の執行体制に依存する部分が大きく、実務面での協力が重要な課題となっている。

ワシントン条約はどのような仕組みで取引を規制しているのか

ワシントン条約は、絶滅の危険度に応じて対象種を附属書に分類し、それぞれに異なる取引規制を課す仕組みをとっている。許可制度によって、取引の合法性を担保し、違法な取引を排除する構造となっている。

附属書I、II、IIIの違いは何か

附属書Iは、絶滅の危険が最も高い種をリストアップしたもので、商業目的の国際取引を原則として禁止する。トラ、マウンテンゴリラ、ジャイアントパンダ、一部のクジラ類、象牙のもととなるアフリカゾウの一部個体群などが含まれる。例外として学術調査や繁殖目的など、厳格な条件下での取引のみが認められる。

附属書IIは、絶滅の危険は現時点では限定的だが、取引が無規制だと危機に陥る可能性がある種を対象とする。商業取引は可能だが、輸出国の許可が必要になる。附属書IIIは、特定の国が自国内で保護している種について、他の締約国に協力を求める場合に指定するリストである。種ごとに保護の強度を段階的に設定する設計が、条約の柔軟性と実効性を両立させている。

取引許可の仕組みはどうなっているか

附属書に掲載された種を国際的に取引する際には、輸出入の許可書の提示が必要になる。許可発行の判断は、各締約国の管理当局と学術当局が担う。学術当局は、取引が種の存続に悪影響を与えないかを判断し、管理当局は許可書の発行と実務を担う。

輸出国の許可だけでなく、附属書Iに該当する取引では輸入国の事前許可も必要になる。さらに税関や警察による水際での取り締まり、関連情報のデータベース化、電子許可制度の導入など、実務面での効率化と透明化も進められている。違反が発覚した場合には、締約国会議の決定によって特定国への取引停止勧告などの措置が取られることもある。

ワシントン条約は何を成果として残し、どんな課題を抱えているのか

ワシントン条約は数多くの絶滅危惧種を保護する成果を挙げてきた一方で、密猟や違法取引の根絶には至っていない。条約の運用は、保護と利用のバランスや、地域社会の生活との関わりなど、多くの課題を含んでいる。

保護の成果と課題は何か

象牙取引の国際的規制は1989年に強化され、附属書Iへの掲載によりアフリカゾウの密猟は一時的に大きく減少した。しかし需要国の市場が残る限り密猟は完全には止まらず、近年もアフリカ各地でゾウやサイの密猟が続いている。

水産資源や木材の保護も論点である。マグロやサメ、希少な熱帯材の掲載をめぐっては、締約国間で意見が分かれることが多い。商業的価値が高い種ほど規制への抵抗も大きく、科学的根拠と経済的利害が交錯する難しい議論となる。

地域社会の暮らしとの関係はどう考えるのか

野生生物の多くは、アフリカやアジアの農村地域に住む人々と隣り合って生息している。保護を強化しすぎると、地元住民の生活や伝統文化に影響を与える場合がある。逆に、住民が保全の利益を受けられない制度では、密猟を防ぐことも難しい。

近年はコミュニティ・コンサベーションと呼ばれる、地元住民が自然資源管理に参加する考え方が広がっている。観光収入の分配、持続的な利用の認可、保全活動への参画などを通じて、野生生物保護を地域の経済と両立させる模索が続いている。ワシントン条約は、こうした現場の実情を反映させながら、規制の在り方を更新していく必要に迫られている。

監修者 taisa68
最終更新日 2026-04-23