国際慣習法
国際慣習法はどのように成立するのか
国際慣習法は、国家の行動が広く積み重なり、それが法として受け止められることで成立する。国際司法裁判所規程第三十八条は、法として認められた一般慣行の証拠として国際慣習を法源に挙げている。2018年の国際法委員会の結論でも、一般的な国家実行と、それが法として受け入れられていることの二つが必要だと整理されている。
板書と整理編にあるように、国際慣習法は国家間の慣行が法として認められたものである。ただし、単に同じ行動が繰り返されるだけでは足りない。外交、立法、裁判、軍事行動、国際機関での発言などを通じて、国家がその行動を法的義務や法的権利として扱っていることまで求められる。
単なる慣習と国際慣習法はどこが違うのか
単なる慣習は、便利だから、昔からそうしているからという理由で続く行動である。これに対して国際慣習法は、守るべき法だから従うという意識を伴う。国際法委員会は、この要素を acceptance as law と整理し、一般には opinio juris と呼ばれると説明している。
ここでいう法的確信とは、国家が心の中でそう思っているというだけではない。公式声明、外交文書、裁判所の判断、国連での投票理由などを通じて、その行動が法として必要だと示されることで確認される。法的確信がなければ、それは礼儀、慣例、政策判断にとどまりうる。
なぜ明文化されていないルールに従う必要があるのか
国際社会には、すべての問題を条約で先回りして決める仕組みがない。にもかかわらず、外交使節の保護、領海の扱い、主権平等、武力行使の制限のように、共通ルールがなければ秩序が崩れる場面は多い。そこで、国家の行動の積み重ねから法を見いだし、明文化の有無にかかわらず適用する必要が生じる。
明文化されていなくても従うべきだとされるのは、そのルールが国家どうしの予測可能性を支えるからである。もし文書にないから無視してよいとなれば、主権国家どうしの関係は毎回ゼロから争うしかなくなる。国際慣習法は、その空白を埋める基礎ルールとして働いている。
国際慣習法はどの範囲の国家に適用されるのか
条約は当事国を中心に拘束するが、国際慣習法は一般に広い範囲の国家へ適用されうる。国際法委員会も、十分に広く代表的で一貫した実行があり、それが法として受け入れられていれば、実行は普遍的である必要はないとしている。つまり、全国家が完全に同じ行動を取っていなくても、一般性と代表性があれば成立しうる。
ただし、どの国家の実行でも同じ重みを持つわけではない。特定の問題でとくに深く関わる国、たとえば海洋法での沿岸国や航行国の実行は、慣習法の成立や確認で大きな意味を持つ。国際慣習法は普遍性を目指すが、その認定過程では問題に直接関係する国家の行動が強く見られる。
持続的反対国はなぜ拘束されないとされるのか
持続的反対国とは、ある慣習法が形成される過程で、一貫して明確に反対を表明し続けた国家を指す。国際法委員会の結論でも、この考え方が補助的に整理されている。慣習法が国家の一般実行と法的確信から生まれる以上、その形成段階で明確に異議を唱え続けた国まで当然に拘束するのは難しいという理屈である。
ただし、この例外は広く使えるわけではない。反対は初期から継続していなければならず、あとから不都合になったので反対するという態度では認められにくい。また、強行規範のように国際社会全体の基礎をなすルールには、この例外は及ばないと考えられている。
国際慣習法はどのように変化していくのか
国際慣習法は固定された一覧ではなく、国家実行と法的確信の変化に応じて姿を変える。新しい技術、戦争形態、環境問題、人権意識の変化が起きれば、国家の行動も変わり、それに伴って何が法とみなされるかも動きうる。整理編にあるように、二十世紀以降は多国間条約の増加と慣習法の成文化が並行して進んだ。
変化は突然起こるのではなく、国家の声明、裁判所の判断、国連決議、軍事マニュアル、国内法改正などを通じて徐々に積み重なる。古い慣習法が弱まり、新しい実行が広がれば、法の内容自体も再構成される。国際慣習法は、過去の慣行の保存庫ではなく、現在の国家関係を映す動的な法でもある。
新しい国際慣習法はどのように形成されるのか
新しい国際慣習法は、ある行動が広く繰り返されるだけでなく、それを法として正当化する言説が伴うことで形成される。たとえば海洋法、人権法、国際刑事法の分野では、条約、国連総会決議、裁判例、国家実行が重なり合って、新しい慣習法の候補が生まれてきた。
North Sea Continental Shelf 事件で国際司法裁判所は、慣習法の成立には広く代表的な実行と法的確信が必要であり、単なる便宜的な行動だけでは足りないと示した。この判断は、慣習法を軽々しく認定しない基準として今も参照されている。
国際慣習法の存在はどのように確認されるのか
国際慣習法は、条約のように一つの文書を見れば確定するものではない。そこで国際裁判所や各国政府は、外交文書、国内法、判例、国際機関での発言、軍事教範、公式声明など、多様な資料を総合して判断する。国際法委員会も、国家実行の証拠として行政、立法、司法その他の行為を広く見てよいとしている。
確認の作業で難しいのは、行動があったという事実と、それが法だと受け止められているかを分けて見る必要がある点である。行動が広く見られても、単に都合がよかっただけなら慣習法とはいえない。逆に、法的主張があっても実行が乏しければ法として定着したとはいえない。この二つをそろえて見ることが確認の核心になる。
強行規範は国際慣習法とどのように関係するのか
強行規範、すなわち jus cogens は、国際社会全体が絶対に破ってはならないと認める規範を指す。国際法委員会の 2022 年結論では、受け入れと承認の程度が特別に高く、これに反する条約を無効にする性質を持つものとして整理されている。侵略の禁止、奴隷制の禁止、拷問の禁止、ジェノサイドの禁止などが代表例とされる。
多くの強行規範は国際慣習法とも重なっているが、すべての国際慣習法が強行規範になるわけではない。国際慣習法の中でも、とくに上位に位置づけられ、逸脱が許されないものだけが jus cogens と呼ばれる。したがって強行規範は、国際慣習法の一部に存在する特別に強い層と理解すると分かりやすい。
条約と国際慣習法はどのように影響し合うのか
条約と国際慣習法は別の法源だが、実際には強く影響し合う。整理編にもあるように、二十世紀以降は慣習法の成文化が進んだ。たとえば海洋法や外交関係法では、もともと慣習として存在したルールが条約で明確化され、その条約実務がさらに慣習法の内容を補強するという循環が見られる。
逆向きの影響もある。ある条約に加入していない国でも、その条約条項が広く国家実行と法的確信を集めれば、慣習法として拘束されうる。North Sea 事件でも、条約条項がそのまま自動的に慣習法になるわけではないが、広く一般化すれば慣習法へ成長しうることが示された。
国際慣習法はなぜ守られるのか
国際慣習法には、国内法のような一元的警察権力がない。それでも守られるのは、国家が相互の予測可能性を必要とし、違反が外交的、経済的、法的な不利益をもたらすからである。外交特権や領海通航のような基本ルールを無視すれば、自国も同じ扱いを受ける可能性が高くなる。
国際裁判所は国際慣習法をどのように認定するのか
国際司法裁判所は、規程第三十八条に基づいて条約、国際慣習、一般原則などを用いる。その際、国際慣習法を認定するには、国家実行と法的確信の両方を具体的に検討する。North Sea Continental Shelf 事件や Nicaragua 事件は、その判断方法を示す代表例としてよく参照される。
裁判所は一つの資料だけで結論を出すのではなく、国家の発言、実際の行動、条約との関係、国連決議の受け止め方などを総合して認定する。だから国際慣習法は曖昧な概念ではなく、証拠を積み上げて確かめる対象である。国際裁判でどう認定されるかを見れば、国際慣習法が現実の紛争処理でどれほど大きな位置を占めているかが分かる。
また、国際慣習法は国際裁判所や各国裁判所で判断基準として使われ、国家の行動を評価する共通言語にもなる。強制力は国内法より弱いが、信用、対抗措置、裁判、国際世論、制裁と結び付くことで実効性を持つ。強制力がゼロだから法ではないと考えると、国際秩序の現実を捉え損なう。
- 山川『詳説世界史研究』
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