第9章 国際政治の動向と課題

北方領土

北方領土

北方領土問題はどのようにして生じたのか

北方領土問題は、第二次世界大戦末期から戦後処理の過程で、択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島の帰属をめぐって日本とソ連、現在のロシアの主張が対立したことから生じた。外務省の北方領土Q&Aによれば、ソ連は1945年8月9日に日ソ中立条約を無視して対日参戦し、日本がポツダム宣言を受諾した後に北方四島を占領し、自国へ編入した。ここに、日本側が不法占拠とみる現状の出発点がある。

その後、戦争状態自体は1956年の日ソ共同宣言で終わったが、四島の帰属について合意できず、平和条約は結ばれないまま残った。つまり北方領土問題は、単なる国境線の食い違いではなく、戦後処理が最終的に完了しなかったことから続いている領土問題である。

北方領土とはどの範囲を指すのか

北方領土とは、歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の四つを指す。外務省Q&Aでも、この四島をまとめて北方四島として示している。日本政府はこれらを北海道の一部であり、いまだかつて一度も外国の領土になったことのない日本固有の領土だと位置づけている。

この範囲の確認は法的に大きな意味を持つ。なぜなら、日本側はこれら四島を『千島列島』には含まれないと主張しており、サンフランシスコ平和条約で放棄した対象には当たらないと考えるからである。どこまでが千島列島で、どこからが北方四島なのかという線引きが、議論の核心の一つになる。

日本とロシアはそれぞれどのような主張をしているのか

日本政府は、1855年の日魯通好条約で国境が択捉島とウルップ島の間に定められ、北方四島は一貫して日本領だったと主張している。また、1951年のサンフランシスコ平和条約で日本が放棄した千島列島には北方四島は含まれず、しかもソ連は同条約に署名していないため、四島の帰属は未解決だという立場を取る。

これに対しロシア側は、第二次世界大戦の結果として南クリル諸島に対するロシアの主権は確立しており、戦後の国際秩序の一部だという立場を取り続けてきた。これはロシア政府関係者の発言やロシア側資料で繰り返されている見解である。したがって両国の対立は、四島の歴史的帰属だけでなく、第二次世界大戦の結果をどう評価するかという認識の違いにも関わっている。

歴史的経緯は領有権の主張にどのように影響しているのか

北方領土問題では、歴史的経緯がそのまま法的根拠として使われる。日本側は1855年の日魯通好条約、1875年の樺太千島交換条約、戦前までの行政運営を根拠に、四島が日本領であったことを示そうとする。整理編でも、条約の文言や歴史的経緯が現在の領土問題の土台になると説明されていた。

一方でロシア側は、第二次世界大戦の帰結と戦後秩序を重視する。どの時点の歴史を出発点に置くかによって結論が変わるため、北方領土問題では歴史認識そのものが交渉の争点になる。過去の文書をめぐる解釈の違いが、現在の外交対立へそのままつながっているのである。

サンフランシスコ平和条約はどのように関係しているのか

サンフランシスコ平和条約は、日本が千島列島に対する権利、権原、請求権を放棄したことを定めている。外務省Q&Aでは、日本政府は北方四島はそもそも千島列島に含まれないと主張している。またソ連はこの条約への署名を拒否しており、日本側は、そのことも帰属未解決の根拠の一つとしている。

つまりこの条約は、問題を完全に解決した文書ではなく、むしろ何を放棄したのか、誰に帰属したのかが争点として残る文書になっている。整理編でも、サンフランシスコ平和条約の文言の曖昧さが現在まで続く対立の原因になったとされていた。

なぜ平和条約がいまだに締結されていないのか

平和条約が結ばれていない最大の理由は、四島の帰属問題について最終的な合意ができていないからである。外務省Q&Aでも、1956年当時、国後島と択捉島の帰属で合意できず、共同宣言によって外交関係だけを回復し、平和条約交渉を継続するとしたと説明されている。その後も立場の隔たりは埋まらなかった。

さらに近年は、ウクライナ情勢を受けた対露制裁などで日露関係全体が悪化し、交渉環境が大きく崩れている。2022年にはロシアが日本との平和条約交渉継続の意思がないと表明した。したがって現在の未締結状態は、歴史的な領土対立と、現在の国際政治上の対立が重なった結果でもある。

北方領土問題はどのような解決策が考えられてきたのか

解決策としては、四島の一括返還、段階的返還、まず歯舞群島と色丹島の引渡しを実現し、その後に残る二島を協議する案、共同経済活動を進めつつ帰属問題を継続協議する案などが考えられてきた。日ソ共同宣言では、平和条約締結後に歯舞群島及び色丹島を引き渡すことが明記されており、この文書は交渉の基礎として繰り返し参照されている。

ただし、どの案も簡単ではない。四島一括を求めればロシア側は受け入れにくく、二島先行なら日本国内で譲歩と受け取られやすい。共同経済活動も、法的立場を害しないという条件が必要になる。解決策は存在しても、どれも政治的負担が大きく、実現に強い障害がある。

北方領土問題は日露関係にどのような影響を与えているのか

北方領土問題は、日露間の平和条約未締結という異例の状態を生み出し、政治・安全保障・経済協力のすべてに影を落としている。整理編でも、渡航制限、漁業制限、船舶拿捕、抑留などが国民生活へ具体的な影響を及ぼすと説明されていた。つまり北方領土問題は象徴的な歴史問題ではなく、現在の政策判断へ直結する現実問題である。

また、日露関係が改善しそうな局面では領土交渉が前進する期待が高まり、関係が悪化すると交渉も凍結する。領土問題は二国間関係の一部分ではなく、関係全体の温度を左右する中心問題になっている。平和条約が結ばれない限り、日露関係は常に戦後処理の未完という影を抱え続けることになる。

監修者 taisa68
最終更新日 2026-04-07