第1章 文明の成立と古代文明の特質

周口店上洞人

周口店上洞人

周口店上洞人とはどのような化石人類なのだろうか

周口店上洞人は、北京郊外の周口店遺跡の「上洞(じょうどう)」と呼ばれる洞窟から出土した新人(ホモ=サピエンス)で、東アジアにおける代表的な旧石器時代後期の化石人類である。1933〜1934年にカナダの古人類学者フランツ・ヴァイデンライヒらの調査で、成人男性・成人女性・老年女性など計3体の頭蓋骨と、装身具・石器・骨角器が発掘された。年代はおよそ3〜2万年前とされる。北京原人が発見された周口店第1地点の上層に位置する別の洞窟で、東アジアの新人が残した文化を示す重要な遺跡である。

周口店上洞人はどのような身体的特徴をもつのか

周口店上洞人の頭蓋骨は、丸みを帯びた高い頭蓋、垂直な額、小さくなった眉骨、明瞭なおとがいなど、現生人類(ホモ=サピエンス)の特徴を明確に備えている。北京原人に見られた厚い骨と張り出した眉骨はなく、骨格全体が細身で現代のアジア人に近い姿をしている。脳容積も現代人とほぼ同じ水準である。発見された3体は顔の形や体格に若干の違いがあり、当初は複数の人種(北方系・南方系・ヨーロッパ系)の混在と解釈されたこともあったが、現在ではいずれも新人の範囲内の個体差と理解されている。

周口店上洞人はどのような文化をもっていたのか

周口店上洞からは、人骨とともに多数の文化資料が出土した。骨針・骨製の飾り・動物の歯に穴を開けた装身具・貝殻製のビーズ・赤色顔料などが見つかっており、縫合した衣服を着用し、身を飾る習慣があったことが示される。人骨の周囲には赤鉄鉱の顔料が撒かれており、意図的な埋葬が行われていたと考えられる。石器は単純な剥片石器が中心だが、骨角器の発達は目立つ。狩猟対象としてはシカ・イノシシ・ヒョウ・バクなどが出土している。遠隔地産の貝殻は、集団間の交換ネットワークの存在を示唆する。

周口店上洞人の発見はなぜ重要なのか

周口店上洞人の発見は、東アジアにおける新人の生活と文化を具体的に知る手がかりを与えた。ヨーロッパのクロマニョン人と同時期の新人集団が、東アジアにも独自の文化を発展させていたことを物的に示したからである。同じ遺跡群で原人・新人の化石が見つかる点でも極めて重要で、原人から新人への段階的変化(ないしは置き換え)を同じ地域で観察できる稀有な場所となっている。装身具と埋葬の痕跡は、ホモ=サピエンスの象徴的思考と宗教的感覚がユーラシアの東端でも共有されていたことを示している。

周口店上洞人は人類史でどう位置づけられるのか

周口店上洞人は、ヨーロッパのクロマニョン人と並ぶ旧石器時代後期の新人集団として、東アジアにおける現生人類の展開を代表する存在である。現代の東アジア人の直接の祖先に位置づけられる可能性があり、アフリカから出たホモ=サピエンスが世界各地に適応していった過程を示す具体例となる。残念ながら出土した頭蓋骨の多くは第二次世界大戦中に失われたが、詳細な型取り資料と写真が研究を支えている。世界史の冒頭で、人類拡散の物語が東アジアにもしっかりと根を下ろしていたことを示す、見逃せない遺跡である。

監修者 taisa68
最終更新日 2026-04-22