第1章 文明の成立と古代文明の特質

アルタミラ

アルタミラ

アルタミラとはどのような遺跡なのだろうか

アルタミラは、スペイン北部カンタブリア地方サンティリャーナ・デル・マルの近郊にある旧石器時代後期の洞窟遺跡である。1879年にアマチュア考古学者マルセリーノ・サンス・デ・サウトゥオラ(とその娘マリア)によって発見された洞穴絵画は、約1万8500年〜1万4000年前のマドレーヌ文化期に、新人(クロマニョン人)によって描かれた。動物をきわめて写実的・立体的に描いた点が特徴で、世界の先史芸術史を書き換えた記念碑的な遺跡とされる。1985年にはユネスコ世界遺産に登録されている。

アルタミラ洞窟にはどのような絵画が描かれているのか

アルタミラ洞窟の最奥部「大広間(天井画の広間)」には、バイソン、馬、シカ、イノシシなどが描かれており、とくに20体近くが描かれたバイソンの群像は圧倒的な迫力をもつ。岩肌の自然な凹凸を巧みに利用し、バイソンの背や腰の盛り上がりを表現する立体的な描写が行われている。赤・黒・黄の顔料が使い分けられ、輪郭線を強調した上で体内に色を塗り分け、部位ごとに陰影を加える技法も見られる。精緻な写実性と構図の巧みさから、19世紀の発見当初には「原始人類にここまで描けたはずがない」と偽作を疑われたほどであった。

アルタミラ洞窟はどのように受け入れられていったのか

アルタミラの発見当初、ヨーロッパの学界は壁画の年代と作者を信じなかった。サウトゥオラは偽作扱いされ、不遇のうちに1888年に亡くなった。しかし1895年以降、南フランスで類似の洞穴絵画が次々と発見され、アンリ・ブルイユらの調査によって年代や芸術的特徴が裏付けられると、1902年には公式に旧石器時代の真作と認められた。これによってアルタミラは「先史時代の精神文化」という概念を成立させた出発点として再評価され、サウトゥオラの業績もようやく正当に位置づけられるようになった。

アルタミラはなぜ画期的な発見だったのか

アルタミラの発見は、旧石器時代の人類像を根本的に書き換えた出来事である。それまでヨーロッパ近代の学界は、旧石器時代の人々を単純で原始的な存在と捉えていたが、アルタミラの壁画は、氷期の人類が高度な観察力・空間把握力・芸術的感覚をもち、集団の宗教的・象徴的営みを展開していたことを示した。これによって「先史時代」は、単なる進化の前史ではなく、人類の精神文化が誕生した時代として位置づけられるようになった。後に発見されるラスコーやショベへの研究の礎も、このアルタミラがつくった。

アルタミラは現在どのように保存されているのか

アルタミラ洞窟もラスコー同様、来訪者の呼気と体熱によって壁画が劣化する問題が深刻になり、1977年に一度完全に閉鎖された。現在では、洞窟に隣接する博物館に精密な複製(ネオ・クエヴァ)が作られ、来訪者は複製を通じて壁画を鑑賞できる。本物の洞窟は保存のため極めて限られた条件でしか公開されない。アルタミラは、南フランスのラスコー、ショベと並ぶ旧石器時代芸術の三大名所として知られ、世界史の冒頭における人類の芸術の誕生を象徴する遺跡となっている。

監修者 taisa68
最終更新日 2026-04-22