領土
領土とはどのような概念なのか
領土(りょうど)とは、一国の主権が及ぶ陸地の部分のことである。国家の三要素(領土・人民・政府)のうちの最も基本的な要素の一つであり、その国の国家権力が直接行使される物理的な基盤である。領土には陸地だけでなく、その土地に接した湖沼・内水(内陸の海域)・河川も含まれる。また、陸地から伸びる島嶼(島・小島・岩礁)も領土の一部を構成する。領土の上には「領空」が広がり、沿岸には「領海」が設定される。この3要素(領土・領海・領空)が合わさって「領域」を構成する。領土は単なる地理的区域ではなく、その国の歴史・文化・経済・安全保障の基盤であり、国家の存立そのものに関わる最重要の要素である。
日本の領土はどのような範囲なのか
日本の領土は北海道・本州・四国・九州の4つの主要な島(いわゆる「本土」)と、周囲に点在する1万以上の小さな島々で構成される。その陸地の総面積は約37.8万平方キロメートルであり、世界では約62位にあたる。南北は北端の択捉島(北緯45.33度)から南端の沖ノ鳥島(北緯20.25度)まで約3000キロメートル、東西は東端の南鳥島(東経153.59度)から西端の与那国島(東経122.56度)まで約3000キロメートルにわたる。日本の特徴は、4つの大きな島の周囲に多数の離島(南西諸島・伊豆諸島・小笠原諸島・その他)が存在し、それぞれが領土として排他的経済水域の起点となることで、海洋面積が陸地面積の10倍以上に達することである。
領土はどのように決定されるのか
国際法上、領土の帰属は「先占(先に実効的に支配した国が領有権を持つ)」「割譲(条約によって他国から譲り受ける)」「征服(武力によって占領・併合する、現代では原則禁止)」「付加(海底の隆起・埋立てなどによる自然または人工的な陸地の増加)」などの法的根拠によって決まる。現代の国際法では武力による領土の変更は禁止されており(国連憲章第2条4項)、領土問題は外交交渉・国際司法裁判所(ICJ)・仲裁裁判所などの平和的手段によって解決することが原則とされている。日本の現在の領土は主に1951年のサンフランシスコ平和条約によって画定されており、その後の国境線の変更は原則として行われていない。ただし北方領土・竹島については日本が主張する範囲と実効支配の現状が一致していない。
日本の領土問題はどのようなものか
日本が抱える主要な領土問題は3つある。北方領土問題はロシアとの間の問題で、北海道北東部にある択捉島・国後島・色丹島・歯舞群島の4島(またはその一部)の帰属をめぐる問題である。これらの島々は1945年にソ連(現ロシア)が占領して以来、現在に至るまでロシアが実効支配している。竹島問題は韓国との間の問題で、島根県隠岐の島町に属する竹島(韓国名・独島)をめぐる問題である。日本は1952年から韓国が不法占拠していると主張しているが、韓国は独自の歴史的根拠に基づいて竹島を自国領と主張している。尖閣諸島問題は中国・台湾との間の問題で、沖縄県石垣市に属する尖閣諸島の領有権をめぐる問題である。日本は尖閣諸島について「領有権問題は存在しない」という立場であるが、中国・台湾は領有権を主張している。
実効支配と法的領有権の違いはどのようなものか
領土問題を理解するうえで重要な概念として「実効支配(じっこうしはい)」と「法的領有権(ほうてきりょうゆうけん)」の区別がある。実効支配とは、実際に行政・警察・軍事力によってある領域を支配している状態のことである。法的領有権とは、国際法上ある領域の主権がある国に属するという法的根拠のことである。理想的には両者は一致しているが、領土問題では往々にしてこれが食い違う。日本の場合、北方領土はロシアが実効支配しているが日本が法的領有権を主張し、竹島は韓国が実効支配しているが日本が法的領有権を主張している。尖閣諸島は日本が実効支配しているが中国・台湾が法的領有権を主張している。国際司法裁判所への提訴は、実効支配と法的領有権の乖離を第三者機関に判断してもらう手段の一つであるが、当事国双方が合意しなければ提訴できないという制約がある。
領土と国際関係はどのようにつながっているのか
領土は経済・安全保障・歴史認識・民族感情と複雑に絡み合っており、単純な地理的区画以上の意味を持つ。経済的観点では、領土の範囲が排他的経済水域(EEZ)を決定し、漁業資源・鉱物資源・石油・天然ガスの利権に直結する。安全保障的観点では、領土の位置・広さが軍事基地の設置可能範囲・防衛線の設定に影響する。歴史的・民族的観点では、かつて居住していた人々・先祖が暮らした土地という民族的アイデンティティの源泉となる場合がある。北方領土についてはかつて居住していた旧島民(元住民)やその子孫の帰属意識が問題解決への強い動機となっている。また対外的な面では、日本とロシア・韓国・中国との関係において領土問題は外交関係全般に影響を及ぼし、経済協力・歴史認識・軍事バランスの問題と連動している。
発展:近代国家形成と領土の確定はどのようになされてきたのか
近代的な「領土」概念が成立したのは17世紀のウェストファリア条約以降であり、それ以前の「領地」とは異なる性格を持つ。中世ヨーロッパでは土地は封建的な契約関係(封土)の対象であり、主権の及ぶ「領土」という概念は未発達だった。近代国家の成立とともに、国家が明確な境界線(国境)を持つ排他的な主権空間として確立され、「領土」の概念も精緻化された。日本の近代的領土の画定は明治時代に行われ、1869年の北海道開拓・1871年の廃藩置県・1872年の琉球処分・1875年の樺太・千島交換条約(ロシアとの間で樺太をロシア領、千島列島を日本領とする協定)・1879年の沖縄県設置などによって現在に近い領土が確定した。第2次世界大戦後には、サンフランシスコ平和条約(1951年)によって日本が南樺太・千島列島・台湾・朝鮮の権利を放棄し、現在の領土が画定した。
国際法における領土取得の方式と歴史的変化はどのようなものか
国際法上、国家が領土を取得する方式は歴史的に「先占」「割譲」「征服」「添付」「時効」の5つに分類されてきた。「先占(先取り)」とはいずれの国にも属していない無主地を先に実効支配することで取得する方式であり、大航海時代以降の植民地獲得に多用された。「割譲」は条約によって一方の国が他方に領土を譲渡する方式で、1972年の沖縄返還(アメリカから日本への施政権返還)などが例として挙げられる。
「征服」とはかつて武力によって他国領土を奪取し自国領とする方式であり、19世紀の国際法では認められていたが、1928年の「不戦条約(ケロッグ・ブリアン協定)」・1945年の「国連憲章」によって違法化された。現代国際法では「武力による領土取得の禁止原則」が確立している。ロシアによる2014年のクリミア編入・2022年のウクライナ東部4州の一方的「併合宣言」は、この原則に反するとして国際社会の大多数が批判している。
「添付」とは自然作用(土砂の堆積・火山活動など)によって領土が拡大する方式である。ハワイ島では現在も火山活動が続いており、溶岩が海に流れ込んで島の面積が増加している。このような自然的添付は当該国の領土と認められる。「時効」とは他国の領土を一定期間実効的に支配し続けることで取得する方式だが、現代国際法では認められていない。
実効支配と法的領有権の乖離が起きている地域はどのようなものか
現代世界には「実効支配国」と「法的領有権を主張する国」が異なる地域が複数存在する。日本の周辺だけでも北方領土(ロシアが実効支配、日本が法的主権を主張)・竹島(韓国が実効支配、日本が法的主権を主張)・尖閣諸島(日本が実効支配、中国・台湾が法的主権を主張)という三つの「実効支配と法的主権の乖離」がある。
世界的に見ると、コソボ(セルビアが法的主権を主張するが独立国として多くの国が承認)・台湾(中国が主権を主張するが実質独立国として機能)・カシミール(インドとパキスタンが領有権を争いながら分割管理)・南シナ海の各礁(中国・ベトナム・フィリピンなどが競合)などが著名な「実効支配と法的主権の乖離」の事例である。
実効支配が長期にわたって継続した場合でも、現代国際法では「事実上の支配が法的権利に転換される」という「権利の時効取得」は認められないのが原則である。しかし現実には長期の実効支配が外交交渉において強い交渉力を与えることは否定できない。竹島問題では韓国が数十年の実効支配を主張の根拠の一つとして挙げており、この点が日本との論争点の一つとなっている。
日本の領土の外縁部とその意義はどのようなものか
日本の領土の外縁は東西南北それぞれ日本列島からかなり離れた島嶼によって形成されている。最北端は択捉島(北緯45度33分)、最南端は沖ノ鳥島(北緯20度25分)、最東端は南鳥島(東経153度59分)、最西端は与那国島(東経122度56分)である。
これら4つの外縁島は、それぞれが日本のEEZを最大限に拡大させる役割を担っている。仮に択捉島がロシアに帰属するとなれば日本の北方EEZが大幅に縮小し、沖ノ鳥島が「岩礁」と判断されればフィリピン海中央部の広大なEEZが失われる。南鳥島のレアアース泥・与那国島の戦略的価値も加えると、外縁の島々は日本の経済・安全保障における最重要拠点である。
国際法の原則では「領土問題の解決には実力行使でなく平和的手段を用いる」とされているが、現実には力の均衡・経済的相互依存・外交的積み上げのバランスが重要である。日本は北方領土問題・竹島問題について国際司法裁判所(ICJ)への付託を主張しているが、相手国が応じない状況が続いており、法的解決の見通しは立っていない。
現代の「領土なき国家」と無人島の帰属問題はどのようなものか
「領土のない国家」という事例として注目されるのが「マルタ騎士団(ソブリン軍事マルタ騎士団)」である。マルタ騎士団はイタリアのローマに本部を置く主権組織であり、100カ国以上と外交関係を持ち外交パスポートを発行しているが、実質的な領土を持たない。この事例は「領土が国家の絶対要件か」という国際法上の興味深い問いを提起する。
無人島の帰属については、国際法上「実効的支配の継続」が重要な要素となる。無人島の場合は「灯台の管理・定期的な巡回・漁業のライセンス発行・行政区域への帰属」などが実効的支配の証拠として挙げられることが多い。日本は尖閣諸島(無人島)の「実効的支配を維持している」として、海上保安庁の定期巡回・気象観測局の設置・行政区への帰属(沖縄県石垣市)などを根拠としている。
21世紀の地政学的変化として「サイバー空間での主権行使」「深海底・宇宙空間での権益確保」など、領土概念が物理的な陸地を超えた領域へと拡張している現象がある。サイバー攻撃が「領土への攻撃」と同様に扱われる法的枠組みの整備・宇宙空間での衛星配置を巡る「軌道上の権利」の問題など、21世紀の「領土問題」は従来の地図上の線引きにとどまらない複雑な様相を呈している。
21世紀の領土問題の特徴と解決への展望はどのようなものか
21世紀の領土問題は20世紀以前とは異なる特徴を持っている。武力による領土変更の禁止(国連憲章)が原則となった結果、軍事力による一方的な解決が難しくなる一方で、「既成事実化(fait accompli)」という戦略が重要性を増している。これは「実力で支配地域を広げ、国際社会が容認する前に定着させる」という手法であり、ロシアによる2014年のクリミア編入・中国による南シナ海の人工島建設がその典型例とされる。
経済的な相互依存と領土問題の緊張は複雑な関係にある。「経済的な損失を恐れて領土問題で強硬策をとりにくい」という考え方(経済的相互依存論)がある一方で、「経済が強くなることで軍事力・外交力も増し、領土問題で強硬になる」という逆の傾向も見られる。中国は経済的成長と並行して南シナ海・東シナ海での活動を活発化させており、経済的相互依存が必ずしも領土問題の平和的解決につながるわけではないことを示している。
国際司法裁判所(ICJ)・仲裁裁判所(PCA)などの国際的な法的機関への付託は、領土問題の平和的解決手段として重要である。しかし裁判には両当事国の合意が必要であり、「有利な立場にある当事国(実効支配を継続する国など)」が裁判を拒否すれば強制できない構造的弱点がある。北方領土・竹島はロシア・韓国が裁判を拒否しており、法的解決の見通しが立っていない状態が続いている。
日本の領土面積は約37.8万平方キロメートル(北方4島を含む)であり、世界の国・地域(約250)の中で62番目前後の大きさとなる。これはドイツ(35.7万km²)より少し大きく、フィンランド(33.8万km²)より大きい程度の規模である。一方、日本のEEZ(約447万km²)はドイツのEEZ(約4万km²)の100倍以上の広さを持つ。つまり日本は「陸地は中規模・海洋は世界有数の規模」という特徴的な構造を持つ国家である。