第9章 国際政治の動向と課題

南北問題

南北問題

南北問題の視点から核軍縮はどう見えるか

南北問題とは、主に先進工業国が北半球に、発展途上国が南半球に多く位置することから名づけられた、先進国と途上国の経済格差・政治的立場の違いを指す概念である。核軍縮の議論は一見すると「核保有国対非核保有国」の対立として描かれるが、実際には「北の核保有国」と「南の非核保有国」という南北問題の延長線上で展開されてきた。NPT体制に対する「五大国の特権」批判、核軍縮と開発援助の連動、核兵器禁止条約への署名構成——これらはいずれも南北問題を抜きには理解できない。核軍縮は純粋な安全保障問題ではなく、南北間の公正と正義をめぐる問題でもある。

NPT体制への南側の批判はどのような論理か

NPTは米・ソ(ロ)・英・仏・中の5か国にのみ核保有を認め、他国の核保有を禁じる構造を持つ。この5か国はいずれも北半球の大国であり、国連安全保障理事会の常任理事国と重なる。南側の多くの国は、この構造を「五大国が自らの核兵器を温存したまま、他国の核保有を禁じる不平等な体制」として批判してきた。

この批判には二つの軸がある。①公正の軸。「なぜ5か国だけが核を持てるのか」という問いに、NPTは歴史的経緯(1967年1月1日以前の核保有)以上の根拠を持たない。②核軍縮義務の軸。NPT第6条は「核軍備競争の停止と核軍縮に関する効果的な措置について、誠実に交渉する」ことを核保有国に義務づけているが、この義務の履行は極めて限定的である。米ロは削減条約を積み重ねてきたが、総数を減らしたのみで廃絶は視野に入っていない。核保有国が自らの義務を果たさないまま非保有国に不拡散を求める構造は、南側の国々にとって正当性を持たない。

核軍縮と開発援助はどう結びつくのか

南北問題の観点から核軍縮を捉えると、核兵器への巨額の支出が開発援助のために振り向けられるべき資源を食いつぶしているという論点が浮かぶ。核兵器の保有と近代化には膨大な費用がかかる。冷戦期の米ソの軍拡競争が両国の経済・社会に歪みをもたらしたことは歴史が示す通りである。冷戦終結時、「平和の配当」として軍事予算が開発援助や社会保障に振り向けられるという期待が高まったが、現実には核保有国の軍事予算は近年再び拡大している。

1978年に国連で開催された第1回軍縮特別総会以来、「軍縮と開発」は国連の重要議題の一つとなってきた。南の国々は「核軍縮が進めば開発援助の原資が生まれる」と主張し、北の国々に軍縮を求めてきた。この議論は実効性こそ乏しいものの、核軍縮を「北が南に提供する安全保障」ではなく「北が南に対して負う義務」として捉え直す視点を提供している。

核兵器禁止条約の署名構成が示すもの

2017年に採択され2021年に発効した核兵器禁止条約は、核兵器の使用・開発・実験・製造を全面禁止する。この条約を推進したのは、アフリカ・中南米・東南アジア・太平洋島嶼国など、主に南の非核保有国であった。逆に核保有5か国と、その「核の傘」のもとにある日本・韓国・NATO諸国などは署名していない。

この署名構成は、核軍縮が南北問題の軸に沿って対立していることを象徴している。南の国々にとって核兵器は「自らの国益を守る手段」ではなく「絶対悪」として現れるが、北の核保有国とその同盟国にとって核兵器は「抑止の不可欠な構成要素」である。この非対称性を乗り越えるには、核軍縮を一方的に南が北に要求するのではなく、双方が共有できる安全保障観を構築する必要がある。非核地帯条約がアフリカ・中南米・東南アジア・中央アジアで成立している事実は、南側が自発的に「核なき地域」を作ってきた証拠であり、北側への問いかけでもある。

監修者 taisa68
最終更新日 2026-04-24