第9章 国際政治の動向と課題

中距離核戦力(INF)全廃条約

中距離核戦力(INF)全廃条約

中距離核戦力(INF)全廃条約とはどのような条約か

中距離核戦力全廃条約(INF条約: Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty)は、1987年12月にアメリカのレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ書記長の間で調印された核軍縮条約である。射程500〜5,500kmの地上発射型弾道・巡航ミサイルを全廃することを義務づける、史上初めて核兵器の「削減・廃棄」を定めた条約として画期的な意義を持つ。それまでの軍備管理条約(SALTなど)が核兵器の「上限設定」にとどまっていたのに対し、INF条約は実際に核兵器を廃棄することを求めた最初の条約であった。

INF条約はどのような背景から生まれたか

1980年代前半、ソ連がヨーロッパに中距離核ミサイル(SS-20)を配備したことに対し、NATOはアメリカのパーシングII弾道ミサイルとクルーズミサイルをヨーロッパに展開することで対抗した。この配備をめぐってヨーロッパでは大規模な反核運動が起き、1980年代前半には数十万人規模のデモが各国で行われた。このような市民運動と東西対話の機運が高まる中、レーガン・ゴルバチョフ首脳会談が実現し、INF条約の締結につながった。

INF条約の履行と検証

条約に基づき、アメリカとソ連(後にロシア)は合計2,692基のミサイルを廃棄した。条約には相互査察の規定が設けられており、両国が相手国のミサイル廃棄を確認できる仕組みが作られた。これは軍備管理における「信頼醸成措置」の重要な先例となった。条約の履行は1991年に完了した。

INF条約の失効とその影響

2019年2月、アメリカはロシアが条約に違反する中距離ミサイルを開発・配備していると主張して条約からの脱退を通知し、同年8月に条約は失効した。ロシアはアメリカの主張を否定し、アメリカも条約違反を犯していると反論した。INF条約の失効により、中距離核戦力の開発・配備に対する条約上の制限がなくなり、新たな軍拡競争への懸念が高まった。「世界終末時計」が2020年に1分40秒前という過去最短水準を更新した要因の一つにINF条約の失効が挙げられる。さらに2022年のウクライナ侵攻でロシアが核使用を示唆したことにより、核軍縮の後退はより深刻な問題となっている。

監修者 taisa68
最終更新日 2026-04-24