中華人民共和国
中華人民共和国は核軍縮秩序の中でどのような特異な位置を占めるのか
中華人民共和国は1964年に核実験を成功させ、NPT体制が認める核保有5か国(P5)の一つとなった。推定核弾頭数は約410発とされ、米ロと比べれば少数だが、2020年代以降の核戦力拡大によって国際社会の注視を集めている。中国の核政策は、米ロ中心の軍備管理体制に組み込まれていないCTBT未批准新STARTの枠外という特異な位置にあり、核軍縮の将来像を大きく左右する存在となっている。中国の動向は、従来の米ロ二極体制を前提とした核軍縮秩序そのものを再設計する必要性を国際社会に突きつけている。
1964年の核実験はどのような意味をもったのか
1964年10月、中華人民共和国は新疆ウイグル自治区のロプノールで最初の核実験を成功させ、アメリカ・ソ連・イギリス・フランスに続く第5の核保有国となった。この実験は、冷戦期における米ソ主導の核秩序に対する挑戦であると同時に、中国が独自の安全保障戦略を確立する転換点でもあった。当時の中国はソ連との関係悪化(中ソ対立)とアメリカとの対立を同時に抱えており、米ソのいずれにも依存しない独自の核抑止力が必要であると判断した。
中国は核実験成功の直後から「先制不使用(No First Use)」政策を宣言した。核兵器を最初に使用することはなく、核攻撃を受けた場合の報復のみに用いるという方針は、核保有国のなかで中国の独自性を示す原則として維持されてきた。この原則は核抑止論の典型とは異なる抑制的な姿勢を示すが、近年の核戦力近代化のなかでその信頼性に疑問が投げかけられることも増えている。先制不使用政策は「最小限抑止」という核戦略の思想とも結びつき、中国の核戦力が長らく米ロに比して小規模に保たれてきた理由の一つとなった。
NPT常任理事国としてどのような責務を負うのか
中国は1992年にNPTに加盟し、米・ソ・英・仏と並ぶ核保有5か国の一員となった。NPT第6条は核保有5か国に対し「核軍縮交渉を誠実に行う義務」を課しており、中国もこの義務を負う立場にある。また、中国は国連安全保障理事会の常任理事国として、核不拡散に関する制裁決議や交渉の主要な当事者となり、北朝鮮の核問題やイラン核合意においても重要な役割を担ってきた。とくに2003年以降の六者会合では議長国を務め、北朝鮮の非核化に向けた多国間枠組みの形成に関与した。
しかし中国の核政策は、米ロが二者間で結んできた軍備管理条約の枠組みには組み込まれていない。SALT・INF・STARTといった条約はすべて米ソ(米ロ)二国間の条約であり、中国は当事者ではない。中国側は「米ロが先に大幅な核軍縮を行うべきであり、米ロの保有規模と中国の保有規模が近づいてから多国間交渉に移るのが筋である」との立場をとり続けている。この論理は、核保有の不平等性を訴える非核保有国の立場に近いが、中国自身が核保有国であることから、国際的な位置付けは複雑である。
2020年代の核戦力拡大はなぜ問題視されるのか
中国は2020年代に入り、核戦力の急速な拡大を進めている。内陸部では新たなICBMサイロ群の建設が衛星画像で確認され、核弾頭保有数も着実に増加している。推定410発という現在の保有数は、2030年代には1,000発を超える可能性があるとの予測も出ており、米ロ二極構造のもとで安定していた核秩序が三極構造へと変化しつつある。
この拡大は、米ロ中心の軍備管理体制に中国をどう組み込むかという新たな課題を生んでいる。アメリカは中国を含む三国間軍備管理交渉を提案してきたが、中国は保有規模の非対称性を理由に応じていない。2023年にロシアが新STARTの履行停止を表明した現状では、米ロ軍備管理そのものが機能停止状態にあり、中国の核戦力拡大はさらなる核軍拡の連鎖を招くリスクをはらんでいる。世界終末時計が過去最短水準を更新し続ける要因の一つに、中国の核戦力拡大が挙げられるようになった。中国の核戦力拡大が「最小限抑止」から「中規模抑止」への転換を意味するのか、それとも先制不使用政策の見直しにつながるのかは、今後の国際核秩序を占う鍵となっている。
CTBT未批准と新START不参加はどのような問題を残すのか
1996年に採択された包括的核実験禁止条約(CTBT)は、爆発を伴う核実験を全面禁止する条約である。中国はCTBTに署名しているが批准していない。CTBTの発効には条約附属書に記載された特定の44か国の批准が必要であり、中国はアメリカ・インド・パキスタン・イスラエル・イラン・エジプト・北朝鮮とともに未批准国に数えられる。中国の批准姿勢は「アメリカが批准すれば批准する」という条件付きの立場であり、米中の相互牽制によって条約発効が長らく妨げられている。
また中国は、米ロ間で結ばれた新STARTにも参加していない。新STARTは戦略核弾頭の配備数を1,550発以下に制限する条約だが、中国は条約の外側で核戦力を拡大できる立場にある。CTBT未批准と新START不参加は、中国が核軍縮体制の中核に組み込まれていないことを示しており、今後の核軍縮秩序をどう再構築するかという根本的な問いに直結している。中国の動向は、米ロ二者体制から多国間体制への移行が可能かどうかを試す決定的な変数となっている。三極構造の時代における核軍縮交渉をどう設計するかは、21世紀半ばの国際安全保障を規定する最大の課題の一つである。