テロリスト
テロリストの存在は核軍縮の論理をどう変えたのか
テロリストとは、政治的・宗教的・イデオロギー的な目的を達成するために、一般市民を含む無差別的な暴力を用いる個人または集団を指す。国家ではない武装集団が主体となる点で、従来の国際法と安全保障の枠組みに収まりにくい存在である。核軍縮論は長らく「国家間の核保有と削減」を中心に議論されてきたが、2001年の同時多発テロ以降、「テロリストが核兵器や核物質を入手する可能性」——いわゆる核テロ——が現実的な脅威として軍縮の議題に加わった。国家を前提として設計されたNPT体制がこの新しいリスクにどう対応するかは、21世紀の軍備管理の最大の課題の一つである。
テロリストとは誰を指すのか
テロリストの定義は国際的に一致していない。国連は「政治的目的のために一般市民を標的にした暴力」を広くテロと呼ぶが、どの組織をテロ組織と認定するかは各国の外交政策によって変わる。一方の国が「テロリスト」と呼ぶ集団を、他方の国が「抵抗勢力」と呼ぶ事例は少なくない。この定義の曖昧さ自体が、対テロ政策の国際協調を難しくしている。
核軍縮の文脈では、定義の細部よりも「国家の統制下にない武装集団が核物質を扱う可能性」が焦点となる。アルカイダやイスラム国(IS)のような国際的な武装組織が核物質の入手を試みたとされる報道は複数ある。冷戦後のソ連崩壊に伴う核物質の管理不全は、テロ組織の核入手リスクを一時的に高めたと指摘されている。
核テロの脅威はどのような経路で高まるのか
核テロの経路には少なくとも三つがある。①完成された核兵器を盗取して使用する経路。②兵器用核分裂性物質(高濃縮ウランやプルトニウム)を入手して簡易な核爆発装置を組み立てる経路。③放射性物質を通常の爆薬と組み合わせて汚染を引き起こす「ダーティボム」の経路である。
このうち②と③の経路は、既存のNPT体制では十分に対処できない。NPTは国家に対してIAEAの査察義務を課すが、民間の核物質管理の穴や、核保有国の内部流出の防止までは直接には扱わない。2010年以降、アメリカが主導した核セキュリティ・サミットは、まさにこの隙間を埋める試みとして開催されたが、ロシアの不参加や中国の関与の限定性など、国際協調は十分とはいえない状況にある。
テロリストの存在がNPT体制に突きつける問いは何か
NPTは国家を前提とした条約である。核保有国と非核保有国という国家単位の区別に立ち、査察も国家単位で実施される。しかしテロリストは国家の内側や国境を越えて活動する非国家主体であり、条約の効力が及ばない領域で動く。
この構造的な限界を補うため、国連安全保障理事会は2004年に決議1540号を採択し、非国家主体による大量破壊兵器の入手を防ぐ国内法整備を全加盟国に義務づけた。しかし法整備のレベルには国ごとに差があり、実効性の確保は道半ばである。テロリストという非国家主体の登場は、軍縮を「国家間の合意」から「国際社会全体の法の統合」へと押し広げる必要性を突きつけている。核抑止論も、国家の指導者が合理的判断を下すことを前提としており、自殺的な動機を持つテロリストには論理的に機能しない。核軍縮の新たな理論的基盤を必要とする時代に入ったといえる。