第9章 国際政治の動向と課題

インド

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インドはNPT体制の外側でどのような核の論理を主張しているのか

インドはNPTに加盟していない核保有国であり、推定核弾頭数は約164発とされる。NPT体制が認める核保有5か国(米・ロ・英・仏・中)の枠外にありながら、実質的に核兵器を保有するという、条約体制の「構造的矛盾」を象徴する国家の一つである。インドの核政策は、NPT未加盟の立場・1974年の「平和的核爆発」・1998年の核実験・カシミール問題という文脈で理解される必要がある。インドの行動は、NPT体制の正当性そのものを絶えず問い直す働きをしてきた。

NPT未加盟はどのような論理に基づいているのか

1968年に成立したNPTは、米ソ英仏中の5か国のみに核保有を認め、他国の核保有を禁止する構造を持つ。インドはこの条約の根本的な不平等性を批判し続けてきた。「五大国の核兵器を温存したまま他国の核保有を禁じようとするNPTの論理は説得力がない」という批判の典型的な立場をとる国家である。

インドの主張は、核保有そのものを望むのではなく、条約が「先に核を持った国」と「後から持とうとする国」を差別的に扱うことへの異議申し立てという性格を帯びている。冷戦期から現在に至るまで、インドはNPTに加盟せず、条約の外側から「普遍的かつ完全な核廃絶」を主張する立場をとっている。この立場は、核兵器保有と核廃絶主張が両立するという独自の論理の上に成り立っており、NPT体制の正当性を根本から問い直す存在となっている。インドの姿勢は多くの非核保有国にも共鳴を与え、「核保有5か国の特権を固定化する条約」というNPT批判の中心的な根拠を提供してきた。

1974年の「平和的核爆発」はどのような転換点となったのか

1974年5月、インドはラージャスターン州ポカランで核爆発実験を実施した。インド政府はこれを「平和的核爆発(PNE:Peaceful Nuclear Explosion)」と名付け、軍事目的ではなく平和利用のための技術実証であると主張した。しかし国際社会はこれをインドの事実上の核兵器保有宣言として受け止め、NPT体制に対する重大な挑戦と受け止めた。

この実験は、核技術の二重性、すなわち平和利用と軍事利用の境界線が曖昧であることを国際社会に突きつけた。実験をきっかけに、核物質・核技術の輸出を管理する原子力供給国グループ(NSG)が1974年に設立された。「平和的核爆発」という呼称の裏で核兵器開発が進行しうるという現実は、NPT体制の抜け穴として指摘され続け、IAEAの査察制度の強化が議論される契機となった。インドの1974年の実験は、その後のパキスタン・北朝鮮・イランの核問題を考える際にも繰り返し参照される「NPT体制の限界」の原型となった。

1998年の核実験はパキスタンとの関係をどう変えたのか

1998年5月、インドは再びポカランで地下核実験を実施し、核兵器保有を公然と宣言した。この実験は「平和的核爆発」という従来の主張を放棄し、核兵器国としての地位を公式に示すものであった。その直後の同年5月、パキスタンもバルチスタン州チャガイで核実験を実施し、南アジアは「核保有国が二国向き合う地域」へと変貌した。

インドとパキスタンの相互核実験は、核軍縮の歯車を大きく逆回転させる出来事であった。両国の核実験はカシミール地方をめぐる領土紛争と深く結びついている。1947年のインド・パキスタン分離独立以来、両国は3度の戦争を含む激しい対立を続けてきたが、核保有後は「核保有国同士の直接戦争は核使用につながりかねない」という安全保障のジレンマの典型例を形作っている。1999年のカルギル紛争は、両国が核保有国となった後に限定的な武力衝突が起きた初めての事例であり、核抑止の下でも通常戦争が発生しうる現実を示した。

核兵器廃絶条約への姿勢はどのような矛盾を抱えるのか

インドは2017年に採択された核兵器禁止条約に署名していない。核兵器禁止条約は核兵器の使用・開発・実験・製造を全面禁止する条約であり、「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」が推進に貢献した。インドは普遍的な核廃絶を支持する一方で、核保有国間の相互的・段階的な軍縮を優先すべきであるという立場をとり、禁止条約には参加していない。

この姿勢には構造的な矛盾がある。NPTに対しては「不平等な条約である」として加盟しないが、自国は核を保有する。核兵器禁止条約に対しては「段階的軍縮が先行すべきである」として署名しないが、国際的には核廃絶を支持すると主張する。この矛盾は、NPT体制の「核保有5か国優遇」という構造と、非核保有国・NPT非加盟国・NPT加盟核保有国という三層構造の複雑さを映し出している。インドの立場は、「条約体制が核保有の格差を固定化する」というNPT批判のもっとも鮮明な具体例である。インドが核保有国として国際社会に迎えられていく過程は、NPT体制が未加盟の核保有国にどう向き合うかという長期的な問題を浮き彫りにしている。

監修者 taisa68
最終更新日 2026-04-24