アメリカ
アメリカは核時代をどのように切り開き、どのように管理してきたのか
アメリカは世界で初めて核兵器を開発し、実戦で使用した唯一の国である。推定核弾頭数は約5,244発で、ロシアとともに世界の核戦力の中心を占めている。アメリカの核政策は、核の発明者としての責任・冷戦下の軍拡競争・同盟国への拡大抑止・核軍縮条約の主導と離脱という複数の層が重なり合い、核軍縮というテーマの出発点と矛盾の両方を体現している。アメリカの選択は、核軍縮の国際的な制度をどう設計するかという問いの核心に位置し続けている。
マンハッタン計画と原爆投下はどのような意味を持ったのか
1945年7月16日、アメリカはマンハッタン計画による核実験を成功させ、人類が核兵器を手にした瞬間を刻んだ。同年8月6日に広島、8月9日に長崎へ原子爆弾が投下され、瞬時に多数の命が奪われただけでなく、生き残った被爆者は放射線による障がいや病気、社会的な差別に長く苦しめられた。被爆症認定をめぐる訴訟は今日も続いており、アメリカによる原爆投下は「戦争終結の手段」という評価を超えた人道的問題を残し続けている。
核兵器を最初に開発し、使用した国であるアメリカは、核時代の幕を開けた国家として特別な位置に立つ。この歴史は、のちにアメリカが核軍縮を主導する立場に立つときにも、核抑止論を擁護する立場に立つときにも、常に参照される原点となった。1955年に発表されたラッセル・アインシュタイン宣言や、翌年広島で開かれた第1回原水爆禁止世界大会は、アメリカの核開発への応答として世界的な反核運動を生み出す源泉となった。
米ソ冷戦の核軍拡と核の傘はどのように形成されたのか
ソ連が1949年に核実験に成功すると、米ソの核軍拡競争が本格化した。大陸間弾道ミサイル(ICBM)・潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)・戦略爆撃機からなる「核の三本柱」を軸に、両国は相互確証破壊(MAD)の構図のもとで膨大な核弾頭を積み上げた。この対立は核抑止論を国際政治の前提へと押し上げ、「恐怖の均衡」が平和を保つという逆説的な論理を定着させた。
アメリカは同盟国にも核の傘を広げる拡大抑止政策を採用した。日本・韓国・NATO加盟国はアメリカの核の傘のもとに置かれ、自国が核兵器を保有しなくても核抑止の恩恵を受けるという構図が形作られた。日本が核兵器禁止条約に署名していない背景には、この拡大抑止への依存が強く作用している。拡大抑止は、非核保有国の安全保障を核保有国に委ねる構造を生み、核廃絶と自国の安全保障の間で同盟国を板挟みにする論理をも同時に生み出してきた。
核軍縮条約の主導と離脱はどのように揺れ動いてきたのか
アメリカは核軍縮条約の主導者でもあり、離脱者でもあるという矛盾した役割を果たしてきた。1963年の部分的核実験停止条約(PTBT)、1968年の核拡散防止条約(NPT)、1972年の戦略兵器制限条約(SALTⅠ)、1987年の中距離核戦力(INF)全廃条約、2010年の新STARTと、米ソ(のちに米ロ)の主要な核軍縮条約はアメリカの参画なしには成立しなかった。1992年以降の核実験モラトリアムも、包括的核実験禁止条約(CTBT)への国際的な機運を高める役割を果たした。
一方で、2002年にはブッシュ政権が弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)から離脱し、ミサイル防衛の自由度を優先する方針を示した。2018年にはトランプ政権がイラン核合意(JCPOA)から離脱し、イランへの経済制裁を再開した。2019年にはINF全廃条約の失効を主導し、ロシアの条約違反を理由に条約の終了を選んだ。アメリカは1996年にCTBTに署名したが、上院の批准拒否によって現在も未批准のままである。これらの離脱・未批准は、アメリカの核政策が「条約による制約」よりも「戦略的自由」を優先する傾向をもつことを示している。
オバマの核なき世界と現実はどのように乖離しているのか
2009年、オバマ大統領はプラハで「核なき世界」の実現を唱える演説を行い、同年にノーベル平和賞を受賞した。2016年には伊勢志摩サミットに合わせて、現職のアメリカ大統領として初めて広島を訪問した。この一連の動きは、核を発明した国が核廃絶を目指すというメッセージを国際社会に発信し、2010年の新START調印にもつながった。
しかし、「核なき世界」の理念と現実の核政策には大きな隔たりがある。アメリカは核戦力の近代化計画を継続し、推定5,244発の核弾頭を保有し続けている。2017年に採択された核兵器禁止条約にも署名していない。オバマの演説以降も、ABM・INF・JCPOAからの離脱が相次ぎ、2023年のロシアによる新START履行停止によって米ロ軍備管理は機能停止状態に陥った。アメリカの核政策は、核軍縮の理念を掲げながら核抑止を基盤とし続けるという矛盾のうえに組み立てられている。この矛盾をどう解消するかは、アメリカ一国の問題にとどまらず、拡大抑止に依存する同盟国すべてに波及する国際的な課題となっている。