第2章 日本の姿

排他的経済水域

排他的経済水域

排他的経済水域とはどのような海域なのか

排他的経済水域(はいたてきけいざいすいいき)とは、沿岸国が水産資源・鉱物資源・エネルギー資源などを排他的に利用・管理する権利を持つ海域のことである。英語では「Exclusive Economic Zone」を略してEEZとも呼ばれる。1982年に採択された国連海洋法条約(UNCLOS)によって、EEZの範囲は海岸線(基線)から200海里(約370キロメートル)以内と定められた。EEZは領海(12海里以内)とは異なり、沿岸国の完全な主権(領域主権)は及ばないが、天然資源の探査・開発・保全・管理、海洋科学調査、人工島・施設の設置などについての「主権的権利」と「管轄権」が認められている。EEZの中では他国の船舶・航空機の通航・飛行は自由であるが、資源の採取については沿岸国の許可が必要となる。


排他的経済水域が生まれた背景はどのようなものか

EEZの概念が誕生した背景には、20世紀後半の漁業資源の枯渇問題と深海底資源の発見・開発意欲の高まりがある。1945年のトルーマン宣言(アメリカ大統領が大陸棚の天然資源に対する管轄権を宣言)を皮切りに、各国が沿岸の海洋資源に対する権利主張を拡大し始めた。1950〜60年代にはアイスランド・ノルウェー・ペルー・エクアドルなどの漁業国が一方的に200海里の漁業水域を主張し、それ以前から漁業を行っていたイギリス・日本などとの間に「タラ戦争(アイスランド漁業紛争)」などの深刻な対立が生じた。こうした混乱を国際的に整理するために、1973年から9年間にわたる長期の交渉(第3次国連海洋法会議)が行われ、1982年に国連海洋法条約が採択された。EEZはこの条約の核心的な概念の一つとして成文化され、世界の海洋秩序の根本的な変革をもたらした。


EEZで認められる沿岸国の権利はどのようなものか

EEZ内で沿岸国に認められる権利は「主権的権利(sovereign rights)」と「管轄権(jurisdiction)」の2種類に分類される。主権的権利とは、EEZ内の天然資源(魚・貝・エビなどの水産生物、石油・天然ガスなどの鉱物資源、海流・風力・潮力などを利用したエネルギー生産)の探査・開発・保全・管理に対する排他的な権利である。「排他的」という言葉は、他国が沿岸国の許可なくこれらの活動を行うことができないことを意味する。管轄権とは、EEZ内での人工島・施設・構造物の設置・利用、海洋科学調査、海洋環境の保護・保全に関する規制権限のことである。一方、EEZ内では他国の船舶・航空機の通航・飛行は自由であり、海底ケーブルやパイプラインの敷設も認められている。これはEEZが領海のような「主権的水域」ではなく、資源利用に関してのみ沿岸国の優先的権利が認められた特別な海域であることを示している。


日本のEEZはどのような特徴を持っているのか

日本のEEZは約447万平方キロメートルに達し、世界で6番目(または7番目)の広さを誇る。これは日本の陸地面積(約38万平方キロメートル)の約11.7倍に相当する広大な海域であり、日本が「海洋大国」として位置づけられる主要な根拠となっている。日本のEEZがこれほど広い理由は、4つの主要島のほか南西諸島(沖縄・奄美等)・伊豆諸島・小笠原諸島・沖ノ鳥島・南鳥島など多数の離島がEEZの起点となっているためである。特に沖ノ鳥島は日本最南端の領土であり、この島が存在することで約40万平方キロメートルのEEZが確保されている。日本のEEZ内は日本海・東シナ海・太平洋の豊かな海洋生態系に恵まれており、マグロ・カツオ・サバ・サンマなど多種多様な水産資源が分布している。また海底には希少金属(レアメタル)・海底熱水鉱床・メタンハイドレートなどの鉱物資源が存在すると見込まれており、将来的な資源開発への期待が高い。


日本周辺のEEZをめぐる問題はどのようなものか

日本のEEZは周辺国との間でいくつかの問題を抱えている。東シナ海では日中のEEZが重複する海域があり、海底資源(特に天然ガス田)の開発をめぐって対立が続いている。日中間の東シナ海における大陸棚や海洋境界の画定は未解決であり、中国が「中間線を越えた」とされる場所に独自の天然ガス田(春暁ガス田)を開発したことが問題となった。日韓間では竹島(独島)周辺の海域をめぐる問題がある。竹島の帰属問題が解決されていないため、竹島を中心とした半径200海里のEEZについても日韓間での境界画定が困難な状況にある。外国漁船による無許可操業も継続的な問題であり、海上保安庁は中国・北朝鮮・ロシアなどの漁船が日本のEEZ内で無許可で漁業を行った事例を多数記録し、取り締まりを行っている。


発展:メタンハイドレートとEEZの未来的価値はどのようなものか

日本のEEZの経済的価値は、現在の漁業・石油・天然ガスにとどまらず、将来の新エネルギー資源においても注目されている。メタンハイドレートとは、深海底の低温高圧環境下でメタンガスが水分子と結合して固体(氷のような物質)になったもので、「燃える氷」とも呼ばれる。日本近海(特に南海トラフ周辺)には世界有数のメタンハイドレートが埋蔵されていると推定されており、その量は日本の天然ガス使用量100年分以上に相当するという試算もある。政府は2013年に世界初の海底メタンハイドレートの試験採掘に成功し、商業化に向けた研究開発を継続している。また海底熱水鉱床(深海底から熱水が噴出する地点に形成される金・銀・銅・鉛・亜鉛などを含む鉱床)や、コバルトリッチクラストと呼ばれるコバルト・ニッケル・マンガンなどを含む深海底の岩石層も日本近海に分布しており、将来の資源開発への期待が高まっている。このような新資源の開発実現に向けて、日本のEEZは現在以上に重要な意義を持つ海域となっている。


日本のEEZの具体的な範囲と意義はどのようなものか

日本のEEZ(排他的経済水域)は約447万平方キロメートルに達し、世界で6番目(または7番目)の広さを誇る。これは日本の陸地面積(約38万平方キロメートル)の約12倍に相当する規模である。日本のEEZがこれほど広いのは、本土から遠く離れた離島(沖ノ鳥島・南鳥島・与那国島・尖閣諸島など)が各方向にEEZを拡大させているためである。

EEZ内で日本が持つ主要な資源権益として、漁業資源(サンマ・サケ・マグロなど)・海底石油・天然ガス(東シナ海ガス田など)・メタンハイドレート(深海底の氷状天然ガス)・レアアース泥(南鳥島周辺)などがある。これらの資源は今後の日本のエネルギー・資源安全保障において重要な役割を果たすと期待されている。

日本のEEZは周辺4カ国(中国・韓国・ロシア・アメリカ)との間で重複・競合する部分があり、境界画定交渉が複雑な状況にある。東シナ海では日中のEEZが重複し(中間線を日本は主張するが中国は大陸棚延長の「自然延長」を主張)、竹島をめぐって日韓間にも未画定部分がある。


EEZをめぐる現代的な問題はどのようなものか

近年のEEZをめぐる問題として特に注目されるのは、中国による「グレーゾーン活動」である。尖閣諸島周辺では中国海警局の船舶が日本のEEZ内・領海内を恒常的に航行し、日本の海上保安庁との長期的な「にらみ合い」が続いている。2021年に中国が「海警法」を制定し海警局に武器使用権限を認めたことで、偶発的衝突のリスクが高まった。

南シナ海では中国が「九段線」による広大な海洋権益を主張しているが、2016年の常設仲裁裁判所(PCA)の判決でこの主張は国際法上認められないと裁定された。中国はこの判決を拒否しており、フィリピン・ベトナムなど周辺国との紛争が続いている。これは日本のEEZとも間接的に関連する問題であり、国際的な海洋秩序をめぐる大きな摩擦点となっている。

EEZ内での漁業管理も深刻な課題である。日本のEEZ内での中国・北朝鮮漁船による無許可操業が問題となっており、特に日本海での「大和堆(やまとたい)」周辺での外国漁船による乱獲が日本漁業者への圧迫となっている。海上保安庁や水産庁は取り締まりを強化しているが、広大なEEZのすべてを効果的に監視することは難しい状況が続いている。


EEZの国際的な管理と将来的な展望はどのようなものか

EEZの概念は1982年の国連海洋法条約(UNCLOS)で正式に確立されたが、アメリカはいまだこの条約を批准していない。世界最大の海軍力を持つアメリカがUNCLOSに加盟していないことで、EEZに関する国際的な法秩序に一定の不確実性が生じている。アメリカは条約の大部分を「慣習国際法」として尊重するとしているが、法的拘束力を持たないという問題がある。

気候変動に伴う海面上昇は、一部の低平な島々(特に太平洋の島嶼国)の水没を招く恐れがある。島が消滅した場合のEEZの扱いについては国際法上の規定が曖昧であり、沖ノ鳥島・キリバス・マーシャル諸島などを中心に将来的な問題となりうる。国際社会では「水没島のEEZ継続」を認める新たな国際ルール作りの議論も始まっている。

深海底資源開発が本格化すれば、EEZとその外(「区域(Area)」と呼ばれる国際海底機構(ISA)の管轄域)の境界がより重要な意味を持つようになる。日本はEEZ内外の深海底資源(メタンハイドレート・レアアース泥・コバルトリッチクラスト)の開発に向けた技術開発を継続しており、2020年代以降の実用化を目指している。


排他的経済水域の経済価値と資源開発の課題はどのようなものか

日本のEEZにおける主要な資源として注目されているのが「メタンハイドレート」である。メタンハイドレートとはメタン(天然ガスの主成分)が水分子と結合した氷状の物質であり、深海底や永久凍土の地下に存在する。日本近海(特に南海トラフ〜熊野灘)の海底には世界でも有数の埋蔵量があるとされており、日本の天然ガス消費量の数十年分に相当するとの試算もある。

2013年に日本は世界で初めてメタンハイドレートの海洋産出実験に成功し、2017年・2024年にも産出試験を実施した。しかし商業化には技術的(砂と混合した状態での採掘・大量産出・パイプライン輸送)・経済的(採掘コストが現在の天然ガス価格より高い)・環境的(採掘時のメタン漏出が温暖化を加速する)課題があり、実用化の時期は未定である。

日本のEEZ内の海底には「コバルトリッチクラスト(コバルト含有量の高い岩板)」も分布しており、南鳥島周辺・小笠原海域・沖ノ鳥島周辺などで調査が進められている。コバルトはリチウムイオン電池の材料として需要が急増しており、中国・コンゴ民主共和国に生産が偏在している現状からの脱却に向けた日本の資源戦略の一環として深海底資源開発が位置づけられている。


EEZにおける漁業管理と持続可能な資源利用はどのようなものか

日本のEEZ内の漁業資源は長年の漁獲圧と海洋環境の変化によって多くの魚種で減少傾向にある。水産庁の資料によると、日本周辺の主要水産資源のうち「低位(少ない)」と評価される資源は全体の30〜40%に達しており、資源管理の強化が急務とされている。特にサンマ・スルメイカ・マサバ・カツオなどの主要魚種で漁獲量の大幅な減少が見られる。

2020年の改正漁業法によって日本の漁業管理制度が大きく変わった。従来の「漁獲努力規制(漁船の数・馬力・日数の制限)」から「漁獲量規制(TAC、Total Allowable Catch)」へと移行が進んでおり、科学的な資源評価に基づいた漁獲上限の設定が拡充されている。これにより個々の漁業者に「漁獲枠(IQ)」が割り当てられ、持続可能な漁業への転換が図られている。

日本のEEZ内でも外国漁船の不法操業が問題となっており、特に北朝鮮漁船による「大和堆(やまとたい)」周辺での違法操業が日本漁業者への深刻な打撃となっている。大和堆は日本海の日本EEZ内に位置する好漁場であり、スルメイカ・ベニズワイガニなどが豊富に生息している。海上保安庁・水産庁が監視・取り締まりを強化しているが、広大な海域すべてを常時監視することは困難である。


「排他的経済水域(EEZ)」という概念が確立する以前は、沿岸国の海洋権益は「領海(12海里以内)」と「公海(自由な利用)」の二区分しかなかった。1945年のトルーマン大統領宣言(アメリカ)が大陸棚の資源に対する主権的権利を一方的に宣言し、これが沿岸国の海洋資源権益拡大のきっかけとなった。1970年代の「魚の乱獲問題・石油資源発見」を受けて各国が争って漁業水域・経済水域を設定し始め、1982年のUNCLOS採択によってEEZが国際的に統一された制度として確立した。


日本のEEZの面積(約447万km²)と陸地面積(約38万km²)の比率は約12:1であり、これは日本が「陸地より海洋のほうが圧倒的に広い国」であることを示す。EEZの面積が陸地面積より大幅に大きい国は島嶼国家・海洋国家に多く、日本の他にはオーストラリア・インドネシア・ニュージーランド・フランス(海外領土を含む)・アメリカ(ハワイ・アラスカ・グアム等を含む)などが上位にある。EEZ面積を人口で割った「一人当たりEEZ」では、太平洋の島嶼国が圧倒的に大きくなる。


排他的経済水域と日本の権益保護

日本は島国であるため排他的経済水域の面積が非常に大きく、世界第6位とも言われる広大な海域を持つ。この海域には豊富な水産資源や海底資源が存在し、日本の経済的発展に欠かせない資源の宝庫となっている。一方で、日本の排他的経済水域は周辺国との間で境界線をめぐる問題も抱えており、中国や韓国との間に未解決の課題が残っている。また、無人島であっても島として認められれば排他的経済水域の基点となるため、沖ノ鳥島のような孤立した小島の維持・管理が重要な国家課題となっている。

監修者 taisa68
最終更新日 2026-04-28